【147A】ソラコム

2026/09/21

企業分析

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企業概要

株式会社ソラコム(証券コード:147A、東京証券取引所グロース市場)は、IoT(モノのインターネット)向けの通信とクラウドの基盤サービス「SORACOM」を提供する会社です。2014年11月に設立され、2015年9月にサービスを開始しました。2017年8月にKDDI株式会社のグループに入り、2024年3月26日にグロース市場へ上場しました。決算期は3月で、2026年3月期が第13期です。代表取締役社長は玉川憲氏です。本社の登記上の所在地は東京都世田谷区で、実際の業務は東京都港区で行っています。

事業は「AI/IoTプラットフォーム事業」の単一セグメントです。IoTでは、機器(センサー、カメラ、車載機器、スマートメーターなど)をインターネットにつなぐために、通信回線、データの保管、クラウドとの連携、セキュリティなど多くの要素が必要になります。同社は、これらを1回線から、Web上で申し込んですぐに使えるかたちで提供しています。通信回線はKDDIやNTTドコモなどの携帯電話会社から借り受け、自社で構築した通信の基幹システム(モバイル・コア)をクラウド上で動かす仮想移動体通信事業者(MVNO)です。

収益は次の3つに分かれます(2026年3月期の連結売上高124.24億円に占める割合は、当レポートの計算です)。

区分 内容 売上高(億円) 売上構成比
リカーリング収益(プラットフォーム利用料) IoT向け通信(SORACOM Air)、ネットワークサービス、データ保存・可視化などのアプリケーションサービスの従量課金、KDDI向けプラットフォーム提供 92.97 74.8%
商品販売 IoT SIM、通信モジュール、カメラ、センサー、スマートメーターなどの仕入販売 21.48 17.3%
その他 プロフェッショナルサービス(導入支援)、KDDIからの技術開発の業務受託 9.79 7.9%

会社は、商品販売とその他を合わせてインクリメンタル収益(顧客がIoTを始める・広げるときに増える収益)と呼びます。顧客のIoT利用が広がるにつれてインクリメンタル収益が先に増え、その後リカーリング収益が積み上がる、という関係だと説明しています。

顧客の獲得方法は、Web広告、オンラインイベント、開発者コミュニティの口コミなどで小規模な顧客を集めるセルフサービス型が中心です。利用が大きくなった顧客には担当のアカウントマネージャーがつき、「メジャーアカウント」へ育てます。2026年3月末の課金アカウント数は約1万400で、スタートアップから大企業、米国・欧州の企業まで幅広く使われています。課金アカウント数とは、1か月の間にリカーリング収益が発生した口座の数で、同じ顧客企業が部署ごとに複数の口座を持つ場合を含みます。

海外売上高比率は40.0%(2026年3月期)で、日本・米国・欧州の3拠点で販売しています(国内顧客向けのグローバル回線の売上も含みます)。

グループは、当社と連結子会社4社(米国のSoracom Global, Inc.、英国のSORACOM CORPORATION, LTD.、車両管理IoTのSaaSを手がける株式会社キャリオット、IoT向けMVNO事業を営む株式会社ミソラコネクト)の計5社です。キャリオットは2024年10月に、ミソラコネクトは2025年8月に、それぞれ議決権の51%を取得して連結子会社にしました。連結の従業員数は201名(臨時雇用者13名を除く)、提出会社単体では101名です。

業績・財務情報

直近5年間の業績(3月期・連結)

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高(億円) 54.51 62.99 79.29 89.93 124.24
営業利益(億円) 5.01 1.01 7.27 6.57 8.71
経常利益(億円) 4.66 1.13 6.38 6.20 8.58
親会社株主に帰属する当期純利益(億円) 3.37 0.71 4.86 3.53 6.31
1株当たり当期純利益(円) 8.76 1.84 12.59 7.84 13.94
1株当たり純資産(円) 97.26 99.34 190.76 222.78 241.91
自己資本比率 66.4% 67.5% 75.5% 75.0% 71.1%
ROE(自己資本利益率) 9.5% 1.9% 8.0% 3.9% 6.0%
営業活動によるCF(億円) 2.19 ▲2.23 4.56 ▲7.29 17.61
従業員数(名) 118 143 150 176 201

※億円表記は千円単位の実数を小数第3位で四捨五入したものです。1株当たり指標は、2022年12月の株式分割(1株→3株)を反映した数値です。

売上高は4年間で54.51億円から124.24億円へ約2.3倍になり、年平均では約23%の成長です(当レポートの計算)。一方、営業利益は2022年3月期の5.01億円から、2023年3月期に1.01億円へ大きく落ち込みました。その後は2024年3月期7.27億円、2025年3月期6.57億円、2026年3月期8.71億円と回復し、2026年3月期は5年間で最高です。ただし、4年間の伸びは売上高が約2.3倍、営業利益が約1.7倍にとどまり、営業利益率は9.2%から7.0%に下がっています(当レポートの計算)。売上の伸びに対して、利益の伸びは緩やかです。ROEも6%台と、10%を下回っています。ROEとは、株主の出資分(自己資本)に対して1年間でどれだけ利益が出たかを示す指標で、一般に10%を超えると高い水準とされます。

営業CFは、2025年3月期に▲7.29億円、2026年3月期に+17.61億円と大きく振れました。会社は、2025年3月期末に大型のデバイス売上の代金が未回収だったこと(売掛金の増加)と、その回収が2026年3月期に入ったことを背景に挙げています。2026年3月期の営業CFは、この一時的な要因で押し上げられているため、事業の実力としては、2期を通算して見るのが適切です(2期の合計は+10.32億円、当レポートの計算)。

2026年3月期(第13期)の内訳

項目 2025年3月期 2026年3月期 増減
売上高 89.93億円 124.24億円 +38.1%
(うちリカーリング収益) 65.62億円 92.97億円 +41.7%
(うちインクリメンタル収益) 24.31億円 31.27億円 +28.6%
売上原価 39.60億円 62.81億円 +58.6%
売上総利益 50.33億円 61.43億円 +22.1%
(売上総利益率) 56.0% 49.4% ▲6.6ポイント
販売費及び一般管理費 43.77億円 52.72億円 +20.5%
(販管費率) 48.7% 42.4% ▲6.3ポイント
営業利益 6.57億円 8.71億円 +32.7%
(営業利益率) 7.3% 7.0% ▲0.3ポイント
EBITDA 8.34億円 12.28億円 +47.3%
特別損失 1.98億円 1.87億円 ―
法人税等 0.83億円 0.23億円 ▲72.5%
親会社株主に帰属する当期純利益 3.53億円 6.31億円 +79.0%

※EBITDAは、会社の定義(営業利益+減価償却費+のれん償却額+株式報酬費用)に基づく開示値です。売上総利益率・営業利益率などの比率と、売上原価・法人税等の増減率は、当レポートの計算です。

この決算は、売上高、リカーリング収益、営業利益のすべてで過去最高でした。増収の要因として、会社は次の3点を挙げています。

  • 2025年8月に連結子会社にしたミソラコネクトの業績貢献
  • 米国市場での売上拡大
  • 既存顧客での利用の拡大

課金アカウント数は8.8千から10.4千へ+13.8%、1アカウントあたりの平均売上(ARPA)は76万円から95万円へ+24.4%でした。顧客数の伸びより、1顧客あたりの利用額の伸びが大きいことが分かります。会社は、既存顧客のリカーリング収益の継続率を示すNRR(Net Retention Rate)が121%、主要顧客(年間リカーリング収益100万円以上)の年間解約率が0.4%と開示しています。NRRが100%を超えるとは、既存顧客からの収益が、解約分を差し引いても前年より増えていることを意味します。

一方で、注意して見たい点が3つあります。

1. 売上総利益率が6.6ポイント低下した

売上が+38.1%と伸びたのに対して、売上原価は+58.6%と大きく増え、売上総利益率は56.0%から49.4%へ下がりました。会社は、この低下の理由を有価証券報告書で詳しく説明していません。当レポートの仮説として、次の2つが考えられます。

  • ミソラコネクトの連結による構成の変化:同社は通信回線の仕入れが主体のMVNO事業で、売上原価の比率が高い可能性があります。会社が経営戦略として「通信ネットワーク統合による原価低減」を挙げている点も、この仮説と整合します。
  • 利益率の低い商品販売(デバイス)の増加:「大型デバイス案件の受注・納品」が寄与したと説明されています。

ただし、それぞれの寄与度は開示されておらず、どちらが主因かは、開示資料からは分かりません。参考として、2025年8月に連結したミソラコネクトの連結期間の売上高は15.88億円、経常利益は0.50億円(経常利益率約3.1%)でした。経常利益率と売上総利益率は同じ指標ではなく、原価構造そのものは開示されていませんが、同社の連結が利益率の低い売上を加えた可能性を示唆する材料です(当レポートの仮説)。売上総利益率が売上構成で動く構造は、後述の感応度で確認します。

2. 特別損失と貸倒引当金

特別損失に、取引先に差し入れた保証金の返還懸念による貸倒引当金繰入額1.37億円、投資有価証券評価損0.50億円を計上しました。あわせて、販管費にも「一部顧客の財務状況の悪化に伴う貸倒引当金」が含まれています。貸借対照表では、流動資産の貸倒引当金が0.04億円から0.70億円に、投資その他の資産の貸倒引当金が0から2.19億円になり、合計は2.89億円です。キャッシュフロー計算書の貸倒引当金の増加額は2.80億円で、これは営業利益(8.71億円)の約3割に相当します(当レポートの計算)。流動資産の0.70億円だけを見ると小さく見えますが、特別損失の保証金分は固定側に計上されています。売上の急拡大の中で、取引先の与信管理の質も確認したい点です。

3. 純利益の伸びには税金の減少が寄与している

税金等調整前当期純利益は4.21億円から6.71億円へ+59.3%でしたが、親会社株主に帰属する当期純利益は+79.0%と、それを上回りました。理由は、法人税等調整額が▲2.06億円(繰延税金資産の計上による税金費用の減少)となり、法人税等の合計が0.23億円と、税引前利益の約3.4%にとどまったためです(当レポートの計算)。参考までに、当期の法人税、住民税及び事業税(現金で払う税金に相当する額)は2.28億円で、税引前利益の約34%です。2026年3月期の純利益は、税金の減少により、営業利益の伸びより大きく見えていることになります。有価証券報告書も、税務上の繰越欠損金が解消すると通常の税率に基づく税金が計上され、純損益に影響する可能性があると記載しています。1株当たり当期純利益(EPS)の伸びは、この点も踏まえて見る必要があります。

2027年3月期 第1四半期(4~6月)の状況

項目 2025年4~6月 2026年4~6月 増減
売上高 22.26億円 33.85億円 +52.1%
(うちリカーリング収益) 18.45億円 27.42億円 +48.6%
売上総利益 12.24億円 15.89億円 +29.9%
(売上総利益率) 55.0% 47.0% ▲8.0ポイント
販売費及び一般管理費 10.96億円 13.74億円 +25.3%
EBITDA 1.74億円 3.16億円 +81.5%
営業利益 1.27億円 2.16億円 +69.3%
(営業利益率) 5.7% 6.4% +0.7ポイント
経常利益 1.20億円 2.03億円 +69.5%
親会社株主に帰属する四半期純利益 1.12億円 1.72億円 +52.9%

※売上総利益、売上総利益率、営業利益率、売上総利益の増減率は、当レポートの計算です。

第1四半期は、売上が+52.1%、営業利益が+69.3%と大きく伸びました。課金アカウント数は前年同期比+21.3%の約1万600、ARPAは+30.6%の104万円で、海外売上高比率は45.7%です。会社は、ミソラコネクトの寄与、米国・欧州でのリカーリング収益の堅調な伸び、国内でのデバイス販売の順調な推移を挙げています。

この伸びの一部は、前年同期にはミソラコネクトが含まれていなかったこと(連結は2025年8月から)による見かけの増加です。有価証券報告書によれば、ミソラコネクトの連結売上高は、2025年8月から2026年3月末までの約8か月で15.88億円でした。これを単純に月割りして3か月分に直すと約6億円になり、これを除いた売上の伸びは、およそ+25%になります(当レポートの概算。月ごとの売上は開示されていないため、目安として見てください)。ミソラコネクトの寄与は、2026年8月以降の四半期では前年比の比較から外れていくため、増収率は第2四半期以降、徐々に低下していくと考えられます。

売上総利益率は、前年同期の55.0%から47.0%へ、さらに下がりました。ただし、販管費が売上の伸びより小さく増えた(+25.3%)ため、営業利益率は5.7%から6.4%に改善しています。

通期予想に対する進捗

会社は、2027年3月期の連結業績予想を、前回公表から変更していません(2026年8月12日時点)。

項目 通期予想 第1四半期実績 進捗率
売上高 151.24億円(+21.7%) 33.85億円 22.4%
(うちリカーリング収益) 114.21億円(+22.8%) 27.42億円 24.0%
EBITDA 16.50億円(+34.3%) 3.16億円 19.2%
営業利益 11.22億円(+28.8%) 2.16億円 19.2%
経常利益 10.73億円(+25.1%) 2.03億円 18.9%
純利益 7.06億円(+11.8%) 1.72億円 24.4%
1株当たり純利益 15.49円 3.77円 24.3%

※進捗率は当レポートの計算です。

第1四半期の進捗率は、売上高で22.4%、営業利益で19.2%です。前年の第1四半期は、通期(2026年3月期)に対して売上高が17.9%、営業利益が14.6%でしたので、今期は前年より進捗が進んでいることになります(当レポートの計算)。ただし、前年の第1四半期にはミソラコネクトが含まれておらず、通期も下期に大型のデバイス案件が集中したため、単純な比較はできません。

通期予想から第1四半期を引いた第2~第4四半期は、売上高約117.4億円、営業利益約9.06億円(営業利益率約7.7%)となります。前年の同じ期間(売上約102.0億円、営業利益約7.44億円)と比べると、売上は約+15%、営業利益は約+22%です(当レポートの計算)。第1四半期の+52.1%という増収率に比べると、予想は控えめに見えます。ミソラコネクトの寄与が徐々に一巡すること、広告宣伝などの投資を増やす計画があることが、その背景にあると考えられます(当レポートの仮説。会社は具体的な説明をしていません)。

一方、純利益の予想は+11.8%と、営業利益の予想(+28.8%)より低い伸びです。これは、前述の税金の減少効果が、今期は同じ規模では期待しにくいことを反映している可能性があります(当レポートの見方)。

財務の状態

項目 2025年3月末 2026年3月末 2026年6月末
総資産 134.03億円 154.99億円 152.80億円
純資産 103.55億円 117.48億円 119.58億円
自己資本比率 75.0% 71.1% 73.7%
現金及び預金 89.18億円 92.69億円 92.55億円
有利子負債(借入金+リース債務) ― 7.67億円 6.99億円
のれん ― 6.92億円 6.68億円
契約負債(前受金など) ― 11.49億円 11.35億円

※2025年3月末の現金は、有価証券報告書の現金及び現金同等物の期末残高です。2026年3月末の有利子負債は有価証券報告書の記載、2026年6月末は決算短信の貸借対照表(1年内返済予定の長期借入金、長期借入金、リース債務)から当レポートが計算しました。

現金が総資産の約6割と手元流動性が厚く、有利子負債は現金の約1/13です。実質的にはネットキャッシュ(現金が借入を上回る状態)が約85.6億円あります(2026年6月末、当レポートの計算)。借入先は主にりそな銀行で、2026年3月末の借入残高は6.88億円です。

2026年3月期のキャッシュフローは、営業CFが+17.61億円、投資CFが▲13.82億円、財務CFが▲0.68億円でした。投資CFの主な内訳は、ミソラコネクトの株式取得による支出9.15億円と、プラットフォームのソフトウェア開発などによる無形固定資産の取得4.65億円です。設備投資の中心は自社のソフトウェア開発(2026年3月期の設備投資総額は4.78億円)で、大きな設備は持たない構造です。

成長戦略・将来性

会社は、「グローバルNo.1のAI/IoTプラットフォーム」を目指すとして、次の4本柱を掲げています。

1. IoT中核事業の成長と拡張

セルフサービスアカウントの増加、メジャーアカウントへの転換、既存顧客の利用拡大(NRR)でリカーリング収益を伸ばす方針です。国内では、ミソラコネクトやキャリオットなどのグループ資産の統合、クロスセル(追加販売)、通信ネットワークの統合による原価の低減で、収益性を高めるとしています。

2. 海外展開の加速

「グローバル売上比率50%超」を目標にしています。米国は中堅・中小企業やスタートアップのセルフサービス獲得に、数千社規模の販売網を持つ販売パートナー(TSD)を通じて注力し、欧州は有望な見込み客への直接アプローチを進めます。今後は中南米・アジアなどへの段階的な進出も掲げています。第三者機関(Gartner社のManaged IoT Connectivity Servicesの評価など)で、KDDIとの共同でリーダーの1社に位置づけられたことを、認知度向上の材料として挙げています。

3. M&Aによるインオーガニック成長

国内外のIoT向けMVNOを買収して地域を拡大し、買収後は自社のクラウド型モバイル・コアに移してコストを下げる方針です。この方針に沿った実例が、ミソラコネクト(取得価額10.85億円、のれん7.11億円、8年で償却)です。

4. 新たな成長市場への展開

  • 通信事業者向けサービス(MVNE):携帯電話会社の従来型の通信設備を、クラウドネイティブのモバイル・コアに置き換える提案です。会社は「数百億円規模のMNO設備更新需要を取り込む」としています。KDDIとの包括契約のもとで協業を深めています。
  • コネクテッドカー:次世代のeSIM標準(SGP.32)に対応した車載通信の提供です。
  • AIネイティブカメラ:クラウドカメラとAI解析の組み合わせです。
  • AI×IoTソリューション:通信・クラウド・デバイスをまとめて提供するソリューション事業です。

生成AI関連では、2023年に松尾研究所と共同ラボ「IoT x GenAI Lab」を設立し、データ分析や、生成AIを使ったアプリの構築を支えるサービスを順次リリースしています。ただし、2026年3月期の研究開発費は2,840万円と小さく、生成AI関連の売上への寄与は、現時点では開示されていません。

事業環境について、有価証券報告書は、IDC社の調査(2025年12月)を引用し、IoT関連の世界市場は2029年に約9,523億ドルに達すると見込んでいます(同社の説明による)。

成長を評価する上で、注目したい点は次のとおりです。

  • 成長の質:課金アカウント数(+13.8%)よりARPA(+24.4%)の伸びが大きく、既存顧客の利用拡大が主因です。NRR 121%と、解約率0.4%(主要顧客)の高さがそれを裏づけます。一方、ミソラコネクトの寄与を除いた場合の成長率は、第1四半期で約25%と見られ(当レポートの概算)、これが今後の「自力の成長率」の目安になります。
  • 利益率:営業利益率は7%前後と低く、成長を優先して利益率を抑えている構造です。会社はマーケティング、人材採用、事業投資に機動的に資金を使う方針を述べています。売上総利益率の低下が続くと、増収の効果が営業利益に届きにくくなります。
  • MNO向けの新市場:大きな機会として掲げられている一方、具体的な受注額や時期は開示されていません。KDDIとの包括契約は締結済みですが、その収益への寄与は、今後の開示で確認する必要があります。

株主還元

同社は設立以来、配当を実施していません。配当方針は、「内部留保の充実が重要であり、今後は業績、財務状況、事業・投資計画を総合的に勘案し、内部留保とのバランスをとりながら検討する」というもので、有価証券報告書のリスク欄では「配当実施の可能性及びその実施時期については未定」としています。2027年3月期の予想配当も0円です。自己株式の取得は行っておらず、自己株式は30株のみです。

なお、会計処理の注記に、株主優待制度(クーポンの利用による売上値引)の引当金が計上されています。優待の詳細は、今回確認した資料には記載がありません。

株主にとっての主な魅力は、業績成長を通じた株価の上昇にあります。配当を目的とする投資には向かない銘柄です。

一方で、希薄化(株式の増加による1株の価値の低下)の可能性があります。2026年3月末時点で、新株予約権が全て行使された場合の潜在株式は4,320,555株で、発行済株式総数(45,579,505株)の9.5%に相当します。また、今後も新株予約権や譲渡制限付株式を使ったインセンティブを活用する方針です。新株予約権の行使で、2026年3月期に約1.96億円の資金が入り、2027年3月期第1四半期にも発行済株式数が増えています(45,579,505株→45,740,509株)。

ガバナンス・リスク

ガバナンス体制は、監査等委員会設置会社です。取締役会は取締役7名(うち社外取締役2名)で構成され、監査等委員は3名(うち社外2名、常勤1名)です。代表取締役社長と社外取締役2名で構成する任意の指名報酬委員会があります。

KDDIとの関係:KDDI株式会社は、発行済株式の42.1%を保有する主要株主(その他の関係会社)で、取締役7名のうち1名がKDDIの執行役員です。会社は、「経営で同社の承認を要する事項はない」としつつ、KDDIが議決権を通じて経営判断に影響を及ぼし得る立場にあり、KDDIの利益が他の株主の利益と一致しない可能性があるとも記載しています。KDDIとの取引は、関連当事者取引管理規程に基づき、年間1百万円以上の新規取引は取締役会で承認する仕組みです。2026年3月期の売上高に占めるKDDIの割合は9.3%です。

主なリスクは、有価証券報告書の記載を中心に整理します。

1. 通信回線の調達(MVNOとしての構造)

同社は自前の通信網を持たず、KDDIやNTTドコモなどのMNOから回線を借りています。NTTドコモとの卸携帯電話サービス契約は「事業に必要不可欠」と記載されています。調達に支障が出たり、調達コストが上昇したりすると、事業運営や利益率に影響します。一部は代替が難しい回線もあると記載されています。なお、KDDIとの業務提携契約により、指定された事業者と競合する行為を行う際には、KDDIとの事前の合意・協議が必要です(これまでに競合に該当した事例はないとされています)。

2. クラウド基盤への依存

サービスをAmazon Web Services(AWS)上で構築しており、AWSの安定稼働が事業の前提です。

3. 利益率の低下(コスト構造)

売上総利益率が2026年3月期に49.4%(前期56.0%)、2027年3月期第1四半期に47.0%まで下がっています。参考として、売上総利益率が1ポイント動いた場合の影響を、2027年3月期の売上高予想(151.24億円)で試算します(当レポートの試算)。

売上総利益率の変化 売上総利益への影響 営業利益予想(11.22億円)に対する割合
▲1ポイント 約▲1.5億円 約13.5%
▲2ポイント 約▲3.0億円 約27.0%

売上総利益率が2ポイント下がると、販管費が予想どおりでも、営業利益予想の約3割が失われる計算です。営業利益率が7%前後と薄いため、売上総利益率の変動に対する営業利益の感応度は高い構造です。

4. のれんの減損リスク

2026年6月末ののれんは6.68億円で、純資産の約5.6%です(当レポートの計算)。ミソラコネクトは、2025年8月から2026年3月末までの連結売上高が15.88億円、経常利益が0.50億円でした。仮にのれんを全額減損した場合、自己資本は約112.6億円から約105.9億円に減ります(2026年6月末、当レポートの試算)。財務が直ちに危うくなる水準ではありませんが、M&Aの成果が出なければ損益に影響します。

5. 取引先の与信

前述のとおり、貸倒引当金の増加額が2.80億円と大きくなりました。IoT機器の大型案件や海外での取引が増える中で、代金回収リスクの管理が重要になります。

6. 為替

海外売上高比率が40%(2026年3月期)から、2027年3月期第1四半期には45.7%へ上がっており、為替の影響を受けます。営業外費用に為替差損が計上されています(第1四半期は0.08億円)。会社は、外貨建ての売上と仕入の相殺効果を考慮し、特段の為替リスク対策は実施していないとしています。

7. 業績のぶれと希薄化

営業利益は、2023年3月期に前期比で約80%減少するなど、成長投資の水準によって振れる年があります。また、ストックオプションによる希薄化の可能性(潜在株式9.5%)もあります。

8. 特定の取引先

2026年3月期に売上高の10%以上を占める取引先はありません(前期はエナジー宇宙10.7%、KDDI 10.6%)。特定の大口取引先への依存度は、下がっています。

株主構成・株価情報

大株主の状況(2026年4月30日現在)

株主名 所有株式数 持株比率
KDDI株式会社 19,201,109株 42.13%
WiL Ventures III, L.P. 3,261,200株 7.15%
玉川 憲(代表取締役社長) 2,980,240株 6.54%
舩渡 大地 2,933,250株 6.44%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 2,082,900株 4.57%
安川 健太 1,129,000株 2.48%
THE BANK OF NEW YORK 133652 998,700株 2.19%
セコム、ソニーグループ、日本瓦斯、日立製作所、ソースネクスト(各社) 各962,400株 各2.11%
上位12名の合計 37,398,399株 82.05%

所有者別では、その他の法人が約53.0%、個人その他が約27.4%、外国法人等が約13.3%です(同日現在、当レポートが単元数から計算)。

上位12名で発行済株式の約82%を保有し、うちKDDIが約42%、2021年6月に資本提携したセコム、ソニーグループ、日本瓦斯、日立製作所、ソースネクスト、WiL(ベンチャーキャピタル)が計約17.7%です(当レポートの計算)。市場で自由に売買される株式(流通株式)は、この上位株主分を除いた部分に限られるため、大口の売買が株価に影響しやすい側面があります。なお、有価証券報告書には、東京証券取引所の上場維持基準である流通株式比率(グロース市場は25%以上とされる)の適合状況や、KDDIによる追加取得・完全子会社化に関する記載はありません。これらは、会社が別途開示する資料(上場維持基準の適合状況に関する報告など)で確認する事項であり、本レポートでは可能性の有無を判断しません。2026年9月18日の出来高は55,700株(約5,600万円、当レポートの計算)でした。

株価と投資指標

Yahoo!ファイナンスに掲載されていた2026年9月18日の終値での指標です。

項目 数値
株価(2026年9月18日終値) 1,004円
時価総額 約459.2億円
PER(会社予想) 約64.9倍(予想EPS 15.46円)
PBR(実績) 約4.08倍(BPS 246.13円)
配当利回り 0.00%(無配)
年初来高値/安値 1,285円(2026年1月13日)/890円(2026年3月31日)

※PERは「株価÷予想EPS(会社予想の1株当たり純利益)」、PBRは「株価÷実績の1株当たり純資産」です。BPS 246.13円は、2026年6月末の自己資本(112.58億円)を発行済株式数(45,740,509株)で割った値と整合します。予想EPSは、決算短信では15.49円で、Yahooの表示(15.46円)とは、株式数の基準の違いによる若干の差があります。

参考指標:現金と有利子負債の差(ネットキャッシュ、約85.6億円)を時価総額から引いた実質的な企業価値は約373.7億円で、2027年3月期の会社予想EBITDA(16.50億円)に対する倍率は約22.6倍です(当レポートの計算。非支配株主持分などは考慮していません)。EBITDAとは、営業利益に減価償却費などを足し戻した、稼ぐ力の目安になる指標です。

有価証券報告書に記載された2026年3月期の株価収益率(実績EPSベース)は64.6倍、株主総利回り(配当込みの株価の動きを示す指標)は67.3%で、比較対象のグロース市場250指数(93.7%)を下回りました。

PERが約65倍、PBRが約4倍という水準は、会社の利益がまだ小さく、成長への期待が株価に織り込まれていることを示すと考えられます。ただし、同業他社との比較データがないため、割高・割安の判断は本レポートでは行いません。この水準では、売上総利益率や営業利益率が予想を下回った場合に、株価への影響が大きくなりやすい点に注意が必要です(当レポートの見方)。

まとめ

ソラコムは、IoT向けの通信とクラウド基盤を1回線から使える形で提供し、売上の約75%が月額課金のリカーリング収益という、継続性の高い収益構造の会社です。2026年3月期は、売上高が+38.1%の124.24億円、営業利益が+32.7%の8.71億円と、いずれも過去最高でした。主要顧客の年間解約率0.4%、NRR 121%と、既存顧客の定着と利用拡大も確認できます。2027年3月期第1四半期も、売上+52.1%、営業利益+69.3%と伸びています。

一方で、見ておきたい点もあります。

  • 増収の中身:ミソラコネクトの連結(2025年8月)が寄与しており、この分を除くと第1四半期の増収率は約25%と見られます。第2四半期以降は増収率が低下していく見込みです。
  • 売上総利益率の低下:2026年3月期に56.0%から49.4%、第1四半期は47.0%と、下がっています。営業利益率が7%前後と薄いため、感応度が高い構造です。
  • 純利益の質:2026年3月期の純利益は、繰延税金資産の計上(法人税等調整額▲2.06億円)で押し上げられています。2027年3月期の純利益予想が+11.8%にとどまる点にも表れています。
  • 与信・取引先の状況:貸倒引当金の増加が約2.8億円と大きく、取引先の信用状況を継続して確認したい点です。
  • 株主構成:KDDIが42.1%を保有し、上位12名で約82%を占めます。KDDIとの関係は、事業上の強みである一方、少数株主の利益との関係でリスクとして記載されています。
  • 株主還元:無配で、配当の実施時期も未定です。ストックオプションによる希薄化の可能性(潜在株式9.5%)もあります。

今後のチェックポイントとして、次の3点が挙げられます。

  • 2027年3月期の第2四半期以降の増収率(ミソラコネクトを除いた実質の成長率)と、売上総利益率の下げ止まりの有無。
  • ARPAと課金アカウント数の推移、NRR・解約率(主要顧客の解約率0.4%が維持されるか)。
  • MNO向けサービス(MVNE)、コネクテッドカーなどの新市場の受注・収益への寄与、およびのれん・貸倒引当金の動き。会社が開示する受注・売上の具体的な数字が出るかどうかが、確認の手がかりになります。

本レポートは、企業の開示資料(有価証券報告書、決算短信)に基づく情報整理であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の最終判断は、ご自身の責任で行ってください。

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