北海道を地盤に鶏卵の生産から製造・販売までを一貫して手がけるホクリヨウ(証券コード1384)について、2026年3月期有価証券報告書、半期報告書、2027年3月期第1四半期決算短信をもとに、ファンダメンタルズ(企業の実力を示す基礎的な情報)を初心者向けに解説します。
1. 企業概要
ホクリヨウは、北海道・岩手県・宮城県に自社農場を持ち、鶏卵の生産から製造(パック詰めなどの加工)、販売までを一貫して自社で行う会社です。事業は「鶏卵事業」の単一セグメントで、他の事業は行っていません。
沿革を見ると、1949年に飼料の販売と乾麺(干しうどん等)の製造・販売を目的とする「北海道糧食株式会社」として創業したのが始まりです。1972年に飼料事業から撤退して「株式会社ホクリヨウ」に社名変更し、鶏卵の生産・販売を専門とする会社として再スタートしました。その後、道内の農場を次々と傘下に収めて生産体制を拡大し、2004年から2008年にかけてグループ会社を本体に統合。2014年には本州展開の足がかりとして株式会社第一ポートリーファーム(岩手県)を子会社化し、東北地方にも農場を持つようになりました(現在は吸収合併済み)。2015年に東京証券取引所市場第二部に上場し、2016年に市場第一部へ指定変更、2022年4月の東証市場区分見直しでスタンダード市場に移行しています。
経営方針として「グローバルな競争社会で成長発展していくために、常に将来を見通し、大胆に変化していく」を掲げています。
ビジネスモデルの特徴は、雛(ひな)の育成から成鶏での産卵、GP工場(Grading & Packing=選別・包装工場)での製品化、そして流通会社への直接販売までを自社で一貫して行っている点です。問屋を介さず取引先に直接販売することで、消費者ニーズを生産に素早く反映できるほか、サルモネラ菌対策や鳥インフルエンザ対策として、窓のない「ウインドレス鶏舎」や自社育成の雛の使用、GP工場の食品安全認証(FSSC22000)取得など、食の安全に力を入れています。北海道内では2026年3月末時点で約225万羽の採卵鶏を飼養しており、道内市場で高いシェアを持っています。
主要製品・収益の柱は鶏卵で、自社ブランド(「PG卵モーニング」「サラダ気分」「雛の巣」など)に加え、取引先ごとのプライベートブランド(OEM)としても供給しています。相場に左右されにくい固定単価の「特殊卵」(栄養素や飼育方法で差別化した卵)の販売比率が高いのも特徴で、鶏卵販売重量の約4割を占めています。鶏卵以外には、鶏糞を原料とした肥料、食肉加工の副産物を扱うレンダリング、液卵・温泉卵などの食品も手がけていますが、売上の大部分(2026年3月期実績で約97.7%)は鶏卵が占めています。
2. 業績・財務情報
直近の業績推移
| 決算期 | 売上高 | 経常利益 | 当期純利益 | EPS | 自己資本比率 | ROE |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 153.6億円 | 9.4億円 | 11.9億円 | 140.82円 | 65.3% | 12.4% |
| 2023年3月期 | 178.2億円 | 13.8億円 | 7.5億円 | 88.13円 | 63.8% | 7.1% |
| 2024年3月期 | 189.0億円 | 23.2億円 | 16.6億円 | 195.81円 | 69.3% | 14.4% |
| 2025年3月期 | 194.0億円 | 20.0億円 | 21.8億円 | 257.93円 | 73.7% | 16.5% |
| 2026年3月期 | 231.1億円 | 50.5億円 | 38.6億円 | 456.65円 | 74.9% | 24.4% |
2026年3月期(第78期)は、売上高231億円(前期比+19.1%)、営業利益49.7億円(+157.8%)、経常利益50.5億円(+152.2%)、当期純利益38.6億円(+77.0%)と、過去5年で最高の業績となりました。 背景には、2024年秋〜2025年春、2025年秋〜2026年春と2年連続で高病原性鳥インフルエンザの感染が全国的に拡大し、供給が絞られたことで鶏卵相場が堅調に推移したことがあります。2026年3月期の平均鶏卵相場は北海道Mサイズが1キロ332円19銭(前年比+67円54銭)、東京Mサイズが1キロ327円53銭(+68円54銭)と大幅に上昇しました。同社は値上げと特殊卵の拡販で対応し、売上高総利益率は31.9%と前期から12.3ポイント改善しました。
なお、業績はこのように鶏卵相場の変動によって大きく振れる構造にある点に注意が必要です。 実際、上半期(第78期中、2025年4月〜9月)は売上高115.4億円(前年同期比+29.7%)、営業利益25.2億円(+615.2%)と、前年同期の低水準からの急回復もあって極めて高い伸び率を記録しました。一方、最新の四半期にあたる2027年3月期第1四半期(2026年4月〜6月)は、売上高58.7億円(前年同四半期比±0.0%)、営業利益11.1億円(-14.8%)、経常利益11.4億円(-14.3%)、四半期純利益8.0億円(-16.3%)と、鳥インフルエンザで殺処分された鶏の再導入が進んで供給力が回復し、鶏卵相場が軟化し始めたことで増益基調に急ブレーキがかかっています。
財務指標とキャッシュフロー
自己資本比率は74.9%(2026年3月期末)と非常に高く、D/Eレシオ(有利子負債と自己資本の比率で、財務の安全性を示す指標)は0.06と、ほぼ無借金に近い健全な財務体質です。ROE(自己資本利益率)は24.4%と高水準でした。
キャッシュフローを見ると、2026年3月期は営業活動によるキャッシュフローが60.9億円のプラス(前期は32.2億円のプラス)と大きく増加した一方、投資活動によるキャッシュフローは20.7億円のマイナス(設備投資が中心)、財務活動によるキャッシュフローは9.1億円のマイナス(借入金の返済や配当金の支払いによるもの)でした。設備投資額は同期36.9億円で、自己資金で賄っています。現金及び現金同等物の期末残高は73.0億円まで積み上がりました。
なお、同社は鶏卵事業の単一セグメントであるため、セグメント別の業績は開示されていません。参考として、製品区分別の販売実績(2026年3月期)は、鶏卵225.8億円(+19.0%)、鶏糞肥料0.3億円(+15.5%)、レンダリング1.3億円(+40.0%)、食品3.7億円(+20.8%)となっており、鶏卵が売上の大部分を占めています。
3. 成長戦略・将来性
同社は具体的な数値目標を伴う中期経営計画は開示していませんが(相場商品を扱う事業の性質上、利益率などの数値目標の設定には慎重な姿勢を示しています)、次の3つの経営戦略を掲げています。
1つ目はケージフリー卵(アニマルウェルフェアに配慮した多段式平飼い=エイビアリー卵)の拡売です。宮城県の農場で生産を開始した平飼い卵の販売量を伸ばしており、マヨネーズやタルタルソースなどの加工品原料としての販売強化にも取り組んでいます。2つ目は海外事業の強化で、2021年から香港向けに輸出を開始した鶏卵に加え、加工食品のアジア市場向け輸出の可能性を探るほか、海外でのM&Aや資本参加も検討するとしています。3つ目は生産性向上によるコスト削減で、老朽化した鶏舎の建替えやGP工場の統廃合を進めています。特に、2023年4月に鳥インフルエンザの感染が確認された千歳農場では、野生動物が侵入しにくい最新型鶏舎への建替えを進めており、2027年度中の完了を見込んでいます。
2027年3月期の業績予想(2026年5月15日公表分から変更なし)は、売上高225.0億円(前期比-2.6%)、営業利益33.3億円(-32.9%)、経常利益34.1億円(-32.4%)、当期純利益22.7億円(-41.2%)、EPS268.36円と、前期の記録的な高水準からの反動減を見込んでいます。これは、鳥インフルエンザによる供給減で高騰していた鶏卵相場が、被害を受けた農場での鶏の再導入が進むにつれて正常化に向かうとの想定に基づくものです。実際、第1四半期の実績はこの予想に沿った推移となっています。研究開発活動については、該当する会計上の計上はないとされています。
4. 株主還元
配当方針は、配当性向30%を目安とすることを掲げています。2026年3月期の配当は、業績を反映して前期から60円増配の1株当たり130円(期末配当のみ)となり、配当性向は28.5%と方針に沿った水準でした。
一方、2027年3月期の配当予想は1株当たり80円と、前期から50円の減配となる見通しです。これは前述の通り、鶏卵相場の正常化に伴う利益の反動減を織り込んだもので、予想EPS268.36円に対する配当性向は約29.8%となり、こちらも30%の方針レンジに沿った計算です。業績の変動が大きい相場商品を扱う事業のため、配当額も業績に応じて大きく上下する点は理解しておく必要があります。
自己株式の取得は、2026年3月期に80株とごく小規模で、期末保有自己株式数も162株(発行済株式総数の0.00%)にとどまり、積極的な自社株買いは行われていません。
5. ガバナンス・リスク
2026年3月期の取締役会は、社外取締役2名を含む取締役7名(社外取締役比率28.6%)、監査役会は社外監査役2名を含む監査役3名で構成されています。社外取締役の日浅尚子氏は北海道新聞社で編集局各部長等を歴任した経歴を持ち、社外取締役の土屋俊亮氏は北海道庁で農政部長・副知事を務めた経歴を持ち、それぞれの専門性を活かして経営の監督にあたっています。
政策保有株式(取引関係の維持・強化を目的に保有する上場株式など)は、非上場2銘柄・上場12銘柄で、貸借対照表計上額の合計は6.3億円です。主な銘柄は、差別化卵の販売促進先である株式会社アークス、平飼い卵の販売提携先であるイオン北海道、メインバンクである株式会社ほくほくフィナンシャルグループ、飼料関連の中部飼料株式会社・フィード・ワン株式会社、加工用卵の販売先であるキユーピー株式会社など、いずれも取引関係の強化を目的としたもので、毎月の取締役会で株価動向を、年1回保有の妥当性を検証しています。
事業等のリスクとして、有価証券報告書では主に次の点が挙げられています。第一に鶏卵相場の変動性(相場に左右されない特殊卵へのシフトや卵価安定基金制度で軽減を図っているものの、供給過剰による長期低迷は業績に影響)。第二に業績の季節変動(例年、鶏卵相場は夏場に下落し秋冬に上昇するため、利益は第3四半期に偏重する傾向)。第三に飼料原料価格の変動(飼料費が生産原価の約6割を占め、飼料安定基金制度で軽減を図っている)。第四に単品経営(鶏卵依存)のリスク。そして最大のリスクとして挙げられているのが高病原性鳥インフルエンザで、実際に2023年4月には同社の千歳農場でも感染が確認された実績があり、業界全体でも直近シーズン(2025年秋〜2026年春)だけで570万羽超が殺処分されるなど、依然として業績への影響が大きいリスク要因です。
なお、サステナビリティ関連の開示として、2025年12月に札幌農場で労働災害による死亡事故が1件発生し、行政の処分・指導を受けて対応を実施、遺族との示談交渉も完了したことが開示されています。人材面では、入社3年以内の社員定着率の目標90%に対して実績62%にとどまるなど、目標未達の指標も一部見られます。
6. 株主構成・株価情報
2026年3月31日時点の主な株主は以下の通りです。
| 株主名 | 持株比率 |
|---|---|
| 株式会社ココリコ | 42.04% |
| 株式会社十文字チキンカンパニー | 4.97% |
| 米山 惠子 | 3.12% |
| 米山 大介(代表取締役会長CEO) | 2.63% |
| 株式会社北海道銀行 | 2.01% |
| 株式会社北陸銀行 | 1.56% |
| 株式会社北洋銀行 | 1.56% |
| 都丸 高志 | 0.99% |
| 大和証券株式会社 | 0.96% |
| BNY GCM CLIENT ACCOUNT(外国法人) | 0.89% |
上位10名の合計は60.73%です。筆頭株主の株式会社ココリコが42.04%を保有しており、同社の実質的な支配株主となっています。次点の株式会社十文字チキンカンパニーは食鶏事業を営む同業関連企業で、経営陣である米山惠子氏・米山大介氏(代表取締役会長CEO)も上位株主に名を連ねています。北海道内の地方銀行3行(北海道銀行・北陸銀行・北洋銀行)が株主に入っているのも、地域に根差した企業らしい特徴です。
発行済株式総数は8,459,000株、単元株式数は100株、自己株式は162株(0.00%)です。株価は、2022年4月4日以降は東証スタンダード市場でのものです。過去5年間の年間高値・安値は、2022年3月期845円〜667円、2023年3月期957円〜599円、2024年3月期1,205円〜727円、2025年3月期1,570円〜850円、2026年3月期3,385円〜1,215円と推移しており、業績拡大とともに株価も大きく上昇してきました。 株主総利回り(配当込みの投資家リターン)も、2022年3月期の98.5%から2026年3月期には427.8%まで伸び、比較指標であるTOPIX(同期間99.6%→179.0%)を大きく上回るパフォーマンスとなっています。
現在の株価情報(松井証券サイトのデータ)では、株価2,209円、時価総額約187億円、PER(実績EPS456.65円ベース)約8.3倍、PBR(BPS2,070.93円ベース)約1.35倍、配当利回り約3.6%となっています。3,385円まで上昇した高値からは調整している状況で、前述の通り2027年3月期は反動減益が見込まれているため、市場もその織り込みを進めているとみられます。株価情報は変動するため、最新の数値は証券会社のサイト等でご確認ください。
7. まとめ
ホクリヨウ(1384)は、北海道を基盤に鶏卵の生産から販売までを一貫して手がける、自己資本比率75%・ほぼ無借金という財務健全性の高い企業です。2026年3月期は鳥インフルエンザによる供給減少を背景とした卵価高騰の追い風を受けて過去最高益を達成し、株価も大きく上昇しました。一方で2027年3月期は相場の正常化に伴う反動減益・減配を会社自身が予想しており、実際に直近四半期の実績もその方向に沿っています。鶏卵という単一商品の相場に業績が大きく左右される事業構造であることは、投資判断において理解しておくべき重要なポイントです。ケージフリー卵の拡売や海外展開といった中長期の成長戦略の進捗、そして鳥インフルエンザの発生動向にも注目していく必要があります。