【1379】ホクト

2026/09/04

企業分析

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1. 企業概要

ホクト株式会社(証券コード:1379、東京証券取引所プライム市場)は、長野県長野市に本社を置く、研究・生産・販売から包装資材の製造までを自社グループで一貫して手がける「日本唯一のきのこ総合企業」です。1964年7月、包装資材の販売会社「デラップス商事株式会社」として設立され、1968年からきのこ栽培用容器(PPビン)の製造を開始、1972年に「ホクト産業株式会社」へ商号変更し、2003年10月に現在の「ホクト株式会社」へ再び商号変更しました(翌2004年、旧社名を引き継いだ子会社「ホクト産業株式会社」を化成品事業の受け皿として新設)。代表者は代表取締役社長の水野雅義氏、資本金は55億円(企業サイト・有価証券報告書に基づく)。

従業員数は、連結ベースで4,097名、提出会社(ホクト単体)ベースで3,325名(いずれも2026年3月31日現在、有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」に基づく)です。株主数は57,513名、発行済株式総数は33,359,040株(うち自己株式1,541,547株)となっています。

沿革(抜粋、有価証券報告書「沿革」欄に基づく)

  • 1964年7月:包装資材販売会社「デラップス商事株式会社」として長野市に設立
  • 1968年4月:きのこ栽培用のPPビン(ポリプロピレン容器)の製造を開始
  • 1972年2月:「ホクト産業株式会社」に商号変更
  • 1983年12月:きのこ総合研究所を設置
  • 1994年11月:日本証券業協会へ株式を店頭登録
  • 1999年11月:東京証券取引所市場第一部に上場
  • 2003年10月:「ホクト株式会社」に商号変更(現社名)
  • 2004年4月:化成品部門を分社化し「ホクト産業株式会社」を新設
  • 2006年7月:米国カリフォルニア州にHOKTO KINOKO COMPANYを設立
  • 2011年3月:台湾に台灣北斗生技股份有限公司を設立(2008年に台湾支店を先行設置)
  • 2012年11月:マレーシアにHOKTO MALAYSIA SDN. BHD.を設立
  • 2013年8月:レトルト食品製造の株式会社アーデンを完全子会社化
  • 2017年5月:株式会社サン・メディカ、Mushroom Wisdom, Inc.(米国)を完全子会社化
  • 2022年4月:東京証券取引所プライム市場へ移行
  • 2023年1月:インドネシアにPT HOKTO INDONESIA MATERIALSを設立(培地原料コーンコブミールの安定調達を目的とした原料生産拠点)
  • 2026年5月:有限会社舟形マッシュルームを子会社化(マッシュルーム生産会社、決算短信ベース)

1983年開設のきのこ総合研究所を起点とする長年の品種改良の蓄積と、2006年以降の米国・台湾・マレーシアへの海外進出、そして直近ではインドネシアでの原料調達拠点設立や国内マッシュルーム会社のM&Aによる商品ラインナップ拡充が、現在の事業基盤を形づくっています。

事業内容とセグメント構成

同社は子会社8社を含むグループで、以下の4つの報告セグメントに区分される事業を展開しています(有価証券報告書「事業の内容」に基づく)。

セグメント 主な事業内容
国内きのこ事業 エリンギ・マイタケ・ブナシメジ・ブナピー・霜降りひらたけ等の生産・販売(全国20か所・33生産センターを稼働、9地域に営業拠点)
海外きのこ事業 米国(HOKTO KINOKO COMPANY)・台湾(台灣北斗生技股份有限公司)・マレーシア(HOKTO MALAYSIA)でのきのこ生産・販売
加工品事業 きのこ加工品(水煮・冷凍)、調理加工品、通信販売商材、子会社アーデンによるレトルト食品OEM等
化成品事業 子会社ホクト産業による、きのこ栽培用資材(PPビン等)、包装資材、工業資材、農業資材の製造・販売

2026年3月期実績(有価証券報告書「販売実績」「セグメント情報」に基づく公式データ)でのセグメント構成比は以下の通りです。国内きのこ事業が売上高の約65%・セグメント利益の約77%を占める中核事業であり、化成品事業は売上高の約16%を占めるものの利益貢献は5%にとどまるなど、収益は国内きのこ事業への依存度が高い構造です。

セグメント 売上高 売上構成比 セグメント利益 利益構成比
国内きのこ事業 560億77百万円 65.3% 72億42百万円 77.3%
海外きのこ事業 82億36百万円 9.6% 11億47百万円 12.2%
加工品事業 80億03百万円 9.3% 5億11百万円 5.5%
化成品事業 135億98百万円 15.8% 4億70百万円 5.0%

(注)セグメント利益の合計(93億70百万円)は、全社費用等の調整前の金額であり、調整額を差し引いた金額が連結営業利益(70億31百万円)となります。

2026年3月期の主要きのこ生産量(連結ベース)は、ブナピーを含むブナシメジ46,876t(前期比+0.3%)、エリンギ15,925t(同△4.5%)、マイタケ15,655t(同+0.4%)でした。

経営理念・ビジネスモデル

同社は「きのこで健康を届けることを使命に市場と消費を拡大する」「利益の創出と企業の社会的責任を両立する」という経営ビジョンを掲げ、コーポレートメッセージ「しあわせ栽培」のもと、健康食材である「きのこ」の研究開発・生産・販売を一貫して自社グループで手がける垂直統合型モデルを特徴としています。目標とする経営指標としては、「連結売上高営業利益率」と「親会社株主に帰属する当期純利益」を最重要指標に位置付けており、2027年3月期の目標値は連結売上高営業利益率8.2%・純利益52億50百万円と、有価証券報告書に明記されています。

2. 業績・財務情報

連結業績の5期推移(有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」に基づく公式データ)

決算期 売上高 経常利益 親会社株主に帰属する当期純利益 1株当たり当期純利益
2022年3月期 709億32百万円 36億58百万円 25億30百万円 80.26円
2023年3月期 729億80百万円 △18億54百万円(赤字) △20億37百万円(赤字) △64.43円
2024年3月期 794億26百万円 47億15百万円 35億25百万円 111.19円
2025年3月期 831億04百万円 69億53百万円(+47.5%) 44億41百万円(+26.0%) 140.63円
2026年3月期 859億15百万円(+3.4%) 81億86百万円(+17.7%) 70億06百万円(+57.8%) 223.84円
2027年3月期(会社予想) 881億円(+2.5%) 76億50百万円(△6.5%) 52億50百万円(△25.1%) 167.22円

同社は2023年3月期に一時的な経常赤字・純損失に陥っています。有価証券報告書に当期の詳細な原因分析は記載されていませんが、同時期は原油価格高騰や為替変動によるエネルギー・原材料コストの上昇が業界全体の逆風となっていた時期で、事業等のリスクにも「原材料価格の変動」「エネルギー価格高騰」がリスク要因として明記されています(この因果関係は筆者の推測であり、会社が公式に説明したものではありません)。2024年3月期以降は増収増益基調が続き、2026年3月期は過去最高水準の売上高・利益を記録しました。

なお営業利益は、2024年3月期31億80百万円、2025年3月期66億28百万円(+108.4%)、2026年3月期70億31百万円(+6.1%)、2027年3月期会社予想72億60百万円(+3.3%)で推移しています(2022年3月期・2023年3月期の営業利益は、今回入手した資料の範囲では確認できませんでした)。

2026年3月期の増益要因

売上高は前期比28億10百万円増の859億15百万円(+3.4%)となりました。売上総利益は労務費・電力費の増加を生産原料費・減価償却費の減少が相殺し249億19百万円(+4.9%)、販管費は運送費増等により178億88百万円(+4.4%)、結果として営業利益は70億31百万円(+6.1%)となりました。経常利益(+17.7%)は円安による為替差益の発生が押し上げ要因となっています。さらに親会社株主に帰属する当期純利益(+57.8%)は、2024年10月に発生した上田第一きのこセンターの火災被害に係る受取保険金19億15百万円が特別利益に計上されたことが大きく寄与しており、一時的な要因を含む点には留意が必要です。

2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は保守的な通期計画に対し大幅な進捗

決算短信によれば、当第1四半期の連結業績は売上高193億43百万円(+4.4%)、営業利益4億18百万円(+136.8%)、経常利益7億77百万円(+426.1%、約5.3倍)と大幅増益となりました。一方で親会社株主に帰属する四半期純利益は4億52百万円(△66.7%)と減益に見えますが、これは前年同期(2026年3月期第1四半期)に上記の火災保険金1,896百万円が特別利益として計上されていた反動によるもので、営業・経常段階の実力ベースの収益は大幅に改善しています。

会社は通期の経常利益予想7,650百万円(前期比△6.5%の減益計画)を据え置いており、上期(4〜9月期)経常利益計画3億30百万円に対し、第1四半期だけで既に経常利益7億77百万円を達成、上期計画に対する進捗率は235.5%に達しています。期初計画の保守性がうかがえる一方、通期の会社予想純利益5,250百万円(△25.1%)は前期の一時的な保険金収入の反動が主因であり、経常段階の実態としては底堅く推移しているとみられます。

業績の季節変動——春・夏は閑散期、秋・冬が稼ぎ時

有価証券報告書は「事業等のリスク」の一項目として季節変動リスクを明記しており、きのこは春から夏にかけて需要が低調・単価安、秋から冬にかけて需要拡大・単価上昇という傾向が顕著であるとしています。2026年3月期の四半期別営業利益は以下の通りで、第2四半期(7〜9月)は営業損失を計上しています。

第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期
売上高(百万円) 18,524 19,555 25,628 22,206
営業利益又は損失(百万円) 176 △118 4,322 2,650

この季節性を踏まえると、2027年3月期第2四半期累計(4〜9月期)の会社予想が純利益△94百万円という小幅の赤字予想になっている(決算短信ベース)ことも、期初からの想定通りの季節パターンとして理解できます。特定の四半期業績のみで通期の業績見通しを判断することは適切ではない点に注意が必要です。

セグメント別の第1四半期実績(2027年3月期1Q)

セグメント 売上高 前年同期比 セグメント利益 前年同期比
国内きのこ事業 120億95百万円 +2.6% 6億73百万円 +47.7%
海外きのこ事業 18億20百万円 △0.1% 82百万円 △64.2%
加工品事業 17億79百万円 +6.3% 39百万円 +138.4%
化成品事業 36億47百万円 +12.7% 1億88百万円 +74.5%

国内きのこ事業は、GW明けの天候不順で野菜相場が堅調に推移したことなどからきのこ価格も堅調に推移し、増収増益となりました。海外きのこ事業は、米国で中東情勢によるガソリン価格高騰を背景に消費が鈍化し、一部の安定顧客が入札方式を採用したことで受注を逃すなど、売上高・営業利益ともに期初計画を下回りました(一方でKrogerグループとの新規取引が一部エリアで開始するなど、新規開拓の成果も出つつあります)。台湾は大手顧客の特売キャンセルと野菜相場の暴落による在庫過多で減益、マレーシアは中国産との競合激化の中、営業損失は縮小しました。

財務指標(有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」より、5期推移)

決算期 自己資本比率 自己資本利益率(ROE) 株価収益率(PER、期末株価ベース)
2022年3月期 51.9% 4.7% 23.75倍
2023年3月期 48.6% -(赤字のため記載なし) -(同左)
2024年3月期 53.0% 6.7% 16.78倍
2025年3月期 52.8% 8.0% 13.27倍
2026年3月期 57.1% 11.5% 8.50倍

※自己資本比率は総資産に占める返済不要の自己資本の割合を示す指標、ROEは株主が出資した資本に対してどれだけ利益を生み出したかを示す指標で、いずれも高いほど財務健全性・資本効率が高いとされます。2026年3月期は自己資本比率・ROEともに5期の中で最も高い水準となりました。なお、上記PER8.50倍は2026年3月期末(2026年3月31日)時点の株価を用いた公式数値であり、株価が変動する現在(2026年9月上旬)とは異なる点に注意してください(詳細は6章で後述します)。

その他、1株当たり純資産額(BPS)は2026年3月期末2,071.19円、2027年3月期第1四半期末(2026年6月末)は2,056円程度(純資産645億4百万円÷期末発行済株式数から自己株式を控除した株数ベースで試算)です。

キャッシュ・フローの状況(有価証券報告書より、5期推移・単位:百万円)

決算期 営業CF 投資CF 財務CF 現金同等物期末残高
2022年3月期 5,851 △11,608 3,012 10,399
2023年3月期 4,675 △4,147 888 12,047
2024年3月期 8,375 1,046 △8,789 13,638
2025年3月期 12,222 △9,012 △1,721 15,069
2026年3月期 10,824 △2,917 △4,420 18,861

2026年3月期の営業CFは、税金等調整前当期純利益100億54百万円・減価償却費51億57百万円・為替差益6億65百万円の計上と、法人税等の支払19億46百万円・仕入債務の減少7億91百万円により108億24百万円のプラス。投資CFは有価証券の純減21億13百万円と有形固定資産の取得49億23百万円により29億17百万円のマイナス。財務CFは短期・長期借入金の純減(合計約28億92百万円)と配当金の支払15億91百万円により44億20百万円のマイナスとなりました。営業CFが投資CFを上回るフリーキャッシュフロー水準を確保しつつ、有利子負債の圧縮と配当還元の両方に資金を充ててきた構図がうかがえます。なお2027年3月期第1四半期は、短期借入金が期首の56億36百万円から96億40百万円へ増加するなど、直近では資金調達行動に変化の兆しも見られます(四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていないため、詳細な資金使途は今回確認できませんでした)。

3. 成長戦略・将来性

同社は2025年5月23日、「中期経営計画(2025年3月期~2029年3月期)」を公表しました。基本方針は「国内きのこ一本足からの多様化」(海外事業・新規分野への展開拡大)と、「ハード(ハコ)からソフト(データ・判断)への転換」(DXを活用した経営基盤強化)の2つです。有価証券報告書でも「PBR及びROICの目標達成に向け、グループを挙げて収益向上に取り組んでまいります」と明記されています。

2029年3月期(最終年度)の数値目標

指標 目標値
売上高 1,000億円(2025年3月期実績831億円から+169億円)
営業利益 100億円(同66億円から+34億円)
全社営業利益率 10.0%
PBR目標 1.9倍
ROIC目標 7.2%
DOE(株主資本配当率)目標 3.5%(配当政策の主要指標として、有価証券報告書に明記)

セグメント別の2029年3月期目標

セグメント 売上目標 営業利益目標 営業利益率目標
国内きのこ事業 570億円 83億円 15%
海外事業 160億円 26億円 16%
加工品事業 150億円 12億円 ―
化成品事業 26億円 3億円 ―

国内きのこ事業では、全国10エリアでの「エリア×アイテム戦略」による生産量最適化・価格安定化と、エネルギーマネジメント効率化(約8億円のコスト削減目標)・DX/省人化(約6億円の削減目標)による収益性向上を計画しています。2025年11月には26年ぶりの品種改良で食感と見た目をリニューアルした新しいエリンギを発売するなど、高付加価値・ブランド化による「価格決定力」の強化にも取り組んでいます(後述するリスク要因の項もあわせてご参照ください)。

海外事業では、最重点市場と位置付ける米国でブナシメジ3,000トン規模の新工場建設を加速し、2027年までに営業利益率10%以上を目指す方針です。ただし直近の決算短信・有価証券報告書では、米国・台湾・マレーシアの3現地法人とも期初計画に届かない四半期が続いており(3章前半参照)、計画達成に向けては地道な立て直しが必要な局面にあるとみられます。

加工品事業では、フレッシュ冷凍きのこ・サプリメントの新商品開発や通信販売事業の強化に加え、M&Aを含めた隣接・非きのこ領域への展開も検討課題として挙げられています。2026年5月に子会社化した有限会社舟形マッシュルームは、この方針の具体的な実行例といえます。

設備投資・その他の施策

具体的な投資額の明示は確認できませんでしたが、成長投資として米国新工場建設・M&A機会の追求・新きのこ種の量産技術開発・DX推進を、既存事業投資として生産設備の更新や品種改良・低コスト栽培技術の確立を計画しているとされています。サステナビリティ関連では、温室効果ガス排出量を2029年3月期までに2024年3月期比15%削減する目標を掲げ、2026年3月期は小諸きのこセンターの燃料をA重油から都市ガスへ転換し、同センターのCO2排出量を32.1%削減したと有価証券報告書に記載されています。

4. 株主還元

配当方針

有価証券報告書によれば、同社は主たる配当目標として「DOE(連結株主資本配当率)」を採用しており、2029年3月期における目標水準を3.5%に定めています。年2回(中間配当・期末配当)の配当を基本方針とし、期末配当は株主総会、中間配当は取締役会がそれぞれ決定機関です。

配当金の推移と配当性向(有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」提出会社ベース、5期)

決算期 中間配当 期末配当 年間配当 配当性向
2022年3月期 10円 50円 60円 118.53%
2023年3月期 10円 30円 40円 -(赤字のため記載なし)
2024年3月期 10円 40円 50円※ 39.63%
2025年3月期 10円 40円 50円 44.14%
2026年3月期 10円 45円 55円 30.1%
2027年3月期(会社予想) 10円 52円 62円 ―

※2024年3月期(第61期)の配当額には、創立60周年記念配当5円を含みます。

2026年3月期の配当性向30.1%は、有価証券報告書の配当政策セクションに会社が明記した公式数値です(提出会社=単体決算のEPS182.44円を基準に算出。55円÷182.44円≒30.15%)。なお、一部の外部株式情報サイトでは連結EPS(223.84円)を基準に算出した配当性向(55円÷223.84円≒24.6%)が表示されている場合があり、どちらのEPSを基準にするかで数値が異なる点にご注意ください。本レポートでは会社の公式開示に基づく単体ベースの30.1%を基準とします。

2027年3月期は年間62円(前期比+7円)への増配を予想しており、DOE目標や中期経営計画の「事業成長に沿った増配」方針とも整合的です。

自己株式取得

定款には「取締役会の決議をもって自己の株式を取得することができる」旨が定められており、機動的な資本政策の遂行を可能とする体制は整っています。しかし、直近の自己株式取得の具体的な実績(取得株数・取得額等)については、今回確認した決算短信・有価証券報告書・半期報告書の範囲では記載を確認できませんでした。

5. ガバナンス・リスク

取締役会・監査役会の構成

同社は監査役会設置会社の形態を採っています。有価証券報告書(2026年6月25日提出)によれば、役員構成は以下の通りです。

区分 人数 内訳
取締役 7名 社内4名、社外取締役3名(比率42.9%)
監査役 4名 常勤監査役1名、社外監査役3名(比率75%)

取締役会議長は代表取締役社長の水野雅義氏(当期の取締役会出席率14/14)。社外取締役は北村晴男氏(弁護士、2025年7月より参議院議員を兼務)、小竹貴子氏、池田潤氏の3名、常勤監査役は神田芳夫氏です。取締役会とは別に、代表取締役社長を委員長とする「報酬諮問委員会」「リスク管理委員会」「コンプライアンス委員会」を設置し、経営の透明性・監督機能の強化を図る体制としています。

株主構成との関係——創業家・取引先との結びつき

大株主上位(後述6章)には、代表取締役社長の水野雅義氏本人が個人として599千株(1.88%)を保有していることが有価証券報告書に明記されており、筆頭株主「株式会社北斗」(18.73%)や「公益財団法人水野美術館」(4.71%)も、社名・所在地(いずれも長野市)から創業家との関連がうかがわれます(この法人の性格自体は有価証券報告書に明記されておらず、推測を含みます)。社外取締役3名・社外監査役3名という体制で一定のチェック機能を備えつつも、創業家が経営陣・大株主の双方に一定の影響力を持つ構造である点は、ガバナンス上の特徴として押さえておきたいポイントです。

政策保有株式

有価証券報告書「株式の保有状況」によれば、純投資目的以外で保有する政策保有株式は非上場株式4銘柄(貸借対照表計上額2百万円)、上場株式16銘柄(同9,700百万円)の合計20銘柄・97億2百万円です。主要銘柄と保有目的は以下の通りです。

銘柄 貸借対照表計上額 保有目的(会社開示)
株式会社八十二長野銀行 36億59百万円 決済・資金借入・資金運用等の取引関係の維持強化
キッセイ薬品工業株式会社 21億57百万円 国内きのこ事業における研究開発等の戦略上の関係強化
アクシアルリテイリング株式会社 15億18百万円 きのこの取引先(量販店)との関係維持強化
アルピコホールディングス株式会社 6億99百万円 傘下量販店がきのこの取引先
株式会社マルイチ産商 3億66百万円 きのこの取引先との関係維持強化

このうち八十二長野銀行とキッセイ薬品工業は、大株主上位10社(6章参照)にも名を連ねており、いわゆる「相互保有」の関係にある点は特徴的です。政策保有株式全体としては、主に生きのこの主要販売先である量販店グループ(アクシアルリテイリング、アルピコホールディングス、マルイチ産商等)と、取引金融機関との関係維持を目的としたものが中心です。

リスク要因(有価証券報告書「事業等のリスク」全11項目、公式開示)

有価証券報告書には、投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクとして、以下の11項目が明記されています(半期報告書でも「重要な変更はない」と確認されています)。

  1. 自然災害・事故等に関するリスク:地震等の自然災害や突発的事故による影響
  2. 社会・経済情勢の変動に関するリスク:国内市場が主たる事業基盤であるため、国内景気・人口動態の変化による需要減退リスク
  3. 気候変動に関するリスク:国内野菜の多くが露地栽培のため天候の影響を受けやすく、きのこ価格も野菜相場に連動する傾向。暖冬等で最需要期(秋〜冬)の需要が伸び悩むリスク
  4. 業績の季節変動に関するリスク:春〜夏は需要低調・単価安、秋〜冬は需要拡大・単価上昇という顕著な季節性(2章参照)
  5. 競合に関するリスク:国内の有力競合先、海外ではアジア系企業との競合。供給量増加や値引戦略により優位性を確保できないリスク
  6. 安全性に関するリスク:食の安全・衛生面や使用原材料に関する消費者意識の高まりへの対応
  7. 海外事業に関するリスク:米国・台湾・マレーシアの政治・経済情勢、法律・税制、紛争・公衆衛生上の問題
  8. 原材料価格の変動に関するリスク:輸入原料(コーンコブミール等)や重油等の価格変動、為替の影響
  9. 人材の確保に関するリスク:優秀な人材の確保・育成の遅れ、採用競争激化による人件費上昇
  10. パンデミック型感染症に関するリスク:感染症拡大時の業務・供給への支障
  11. エネルギー価格高騰に関するリスク:空調・照明等が電気・A重油・ガスに依存しており、価格転嫁ができない場合の収益圧迫

国内の「価格決定力」と海外事業の実態——開示情報からの補足

指示書で求められている「価格決定力」の観点について、開示資料から読み取れる範囲で補足します。国内きのこ事業は、上記リスク要因3・4の通りきのこ価格が野菜相場・天候に連動しやすい構造にあり、2027年3月期第1四半期は「天候不順で野菜相場が堅調に推移したことなどからきのこの価格も堅調に推移した」と決算短信に記載されているように、同社が自ら価格を主導するというよりは、需給環境に価格が左右されやすい面があるとみられます。これに対し会社は、「霜降りひらたけ」等の独自品種をプレミアム商品と位置付けたブランディングや、26年ぶりの新品種エリンギ投入など、価格決定力を高めるための高付加価値化・差別化戦略を進めている段階と整理できます。

海外事業(特に米国)については、当第1四半期に「中東情勢の影響でガソリン価格が高騰し消費が鈍化」「一部の安定顧客が入札方式を採用し失注」といった具体的な逆風が決算短信に記載されており、マクロ経済・地政学リスクと価格競争入札の両面で計画未達が続いているのが実情です。一方でKrogerグループとの新規取引開始など前向きな動きもあり、中期経営計画が掲げる「2027年までに営業利益率10%以上」の達成には、これらの逆風を跳ね返す進捗が必要な状況といえます(なお、現地の建設コストやインフレの影響についての具体的な記載は、今回確認した資料の範囲では見当たりませんでした)。

6. 株主構成・株価情報

大株主(上位10名、2026年3月31日現在・有価証券報告書「大株主の状況」に基づく公式データ)

株主名 持株比率
株式会社北斗 18.73%
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 8.88%
株式会社八十二長野銀行 4.95%
公益財団法人水野美術館 4.71%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 3.16%
ホクト従業員持株会 2.14%
水野 雅義(代表取締役社長) 1.88%
キッセイ薬品工業株式会社 1.57%
三木産業株式会社 1.39%
日本生命保険相互会社 1.31%
上位10名合計 48.74%

株式・株価情報

  • 発行済株式総数:33,359,040株(うち自己株式1,541,547株)
  • 単元株数:100株
  • 株主数:57,513名
  • 2026年3月期の株価レンジ(プライム市場):最高2,123円、最低1,690円

バリュエーション(PER・PBR)の考え方——複数の数値が出てくる理由

外部の株式情報サイトでは、ホクトのPERとして「13倍前後」、PBRとして「0.9倍台」という数値がよく見られますが、これは有価証券報告書に記載された2026年3月期末(2026年3月31日)時点の公式PER8.50倍とは異なります。今回、決算短信・有価証券報告書の一次データを突き合わせたところ、以下のように整理できます。

  • 有価証券報告書の公式PER8.50倍:2026年3月期の実績EPS(223.84円)を、同期末(2026年3月31日)の株価で割った数値
  • 外部サイトでよく見るPER13倍前後:2027年3月期の会社予想EPS(167.22円、決算短信に記載)を、直近(2026年9月上旬)の株価で割った、いわゆる「予想PER」。株価2,177円で計算すると167.22円×13.02≒2,177円とほぼ一致します
  • 仮に直近株価を実績EPS(223.84円)で割ると、PERは約9.7倍となります

つまりPERの数値差は「実績ベースか予想ベースか」「基準時点が期末か現在か」の違いによって生じているのであり、矛盾しているわけではありません。同様にPBRについても、外部サイトの「0.9倍台」は2026年3月期末のBPS(2,071.19円)と同時点の株価(公式PER8.50倍・実績EPS223.84円から逆算すると1,903円程度)を基準にした数値とみられ、直近の株価(2,177円)と直近判明しているBPS(2027年3月期第1四半期末ベースで概算2,056円)で計算すると、PBRはおおむね1.05〜1.06倍程度になります。株価指標を参照する際は、必ず「いつ時点の株価と、どの期のEPS・BPSを組み合わせているか」を確認することが重要です。

バリュエーションについての整理(筆者の見解)

上記を踏まえると、直近のホクトの株価水準は、実績ベースでPER10倍弱・PBR1倍前後、予想ベースでPER13倍前後という水準にあります。中期経営計画が掲げる2029年3月期のPBR目標1.9倍・ROIC目標7.2%と比較すると、現状のPBR(1倍前後)とROE実績(2026年3月期11.5%)との間には、市場評価とファンダメンタルズの間にギャップがあるようにも見えます。

ただし、有価証券報告書に記載の株主総利回り(配当込みの株主リターンを指数化したもの)を見ると、2026年3月期は103.4%となっており、同時期の比較指数である配当込みTOPIX(202.2%)を大きく下回っています。つまり、足元の増益・高ROEにもかかわらず、株式市場からの評価(株価パフォーマンス)は市場平均に見劣りしてきたというのが直近5年間の実態です。この背景としては、2023年3月期の赤字転落や、2026年3月期の大幅増益の相当部分が火災保険金という一時的要因に依存していたこと、海外事業で期初計画未達が続いていることなど、収益のボラティリティや海外事業の実行力に対する市場の慎重な見方が、PBR・株価パフォーマンスの重石になっている可能性が考えられます。これが「市場による過小評価」なのか、「相応の慎重な評価」なのかは見方が分かれるところであり、本レポートとして断定的な判断は避けますが、中期経営計画で掲げるROIC・PBR目標の達成度合いと、海外事業の計画達成状況が、今後の株価評価を左右する重要な観察点になるとみられます。

7. まとめ

ホクト(1379)は、1983年開設のきのこ総合研究所を核に、研究・生産・販売から包装資材製造までを一貫して手がける「日本唯一のきのこ総合企業」です。有価証券報告書の5期データを確認すると、2023年3月期に一時的な赤字を計上した後、2024年3月期以降は増収増益基調が続き、2026年3月期には売上高859億15百万円・純利益70億06百万円と過去最高水準を記録しました。ただしこの純利益急増の相当部分は、火災保険金という一時的な特別利益によるものである点には留意が必要です。

2025年5月に公表された中期経営計画(2025年3月期~2029年3月期)では、国内きのこ事業への依存からの脱却を掲げ、2029年3月期に売上高1,000億円・営業利益100億円・ROIC7.2%・PBR1.9倍・DOE3.5%という数値目標のもと、米国での新工場建設を軸とした海外事業拡大、ブランド力強化による価格決定力の向上、DXによる収益性改善などを打ち出しています。直近の2027年3月期第1四半期決算では、経常利益が前年同期比5.3倍となるなど、保守的な通期計画に対して大幅な進捗を示す一方、海外事業(特に米国・台湾)では期初計画未達が続いており、中期計画の実現には海外事業の立て直しが鍵になるとみられます。

株主還元では、DOE(株主資本配当率)を主要指標とした増配方針のもと、2026年3月期の配当性向は会社発表ベースで30.1%、2027年3月期は年間配当62円(前期比+7円)を予想しています。一方で、創業家とみられる株主・経営陣の関与が続く株主構成、PBRが1倍前後にとどまり配当込みTOPIXを下回ってきた株価パフォーマンス、きのこ栽培事業特有の季節変動・天候・エネルギーコストリスクは、投資判断にあたって留意しておきたいポイントです。中期経営計画で掲げる「多様化」「資本効率向上」という2つの目標が、今後どこまで実現されていくかが、株価評価を占ううえでの重要な観察点になるとみられます。なお、本記事の目的はあくまで情報提供であり、最終的な判断はご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。


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