【130A】Veritas In Silico

2026/08/31

企業分析

t f B! P L

1. 企業概要

株式会社Veritas In Silico(証券コード:130A、東京証券取引所グロース市場)は、2016年11月17日設立のバイオベンチャーです。本社は東京都品川区西五反田一丁目11番1号にあり、研究拠点として神奈川県川崎市の「川崎研究所」と新潟県新潟市の「新潟研究所」を持っています。従業員数は23名(2026年6月1日現在、企業サイトより)と、非常に小規模な組織です。2024年2月8日に東証グロース市場に新規上場しており、上場に際しては英字を含む証券コード「130A」を国内で初めて採用した企業としても話題になりました。

事業内容は、独自のAI創薬プラットフォーム「aibVIS(旧称:ibVIS)」を用いて、製薬会社をパートナーとしたmRNA標的低分子医薬品の創出に取り組む「プラットフォーム事業」と、核酸医薬品(アンチセンスオリゴヌクレオチド/ASO)を中心とした自社パイプラインの創出に取り組む「パイプライン事業」の2本柱です。事業セグメントとしては単一セグメント(創薬プラットフォーム関連事業)として開示されています。

企業理念として「どんな疾患の患者さまも適切な治療が受けられるように」という姿勢を掲げ、ミッションに「希望に満ちたあたたかい社会を次世代創薬による医薬品で実現すること」を掲げています。中核技術は、mRNA(メッセンジャーRNA)の立体構造の中から低分子医薬品の標的となりうる部分構造を見出す独自のインシリコ(計算科学)技術で、これに実験的検証を組み合わせている点が特徴です。RNA構造解析ソフト「MobyDick®」や独自のスクリーニング手法「qFRET」、カテーテルを用いたドラッグデリバリー技術「Perfusio」(2025年12月に特許取得)といった要素技術も保有しています。

沿革の主な節目は次の通りです。

  • 2016年11月:設立
  • 2017年:シリーズA資金調達、新潟薬科大学に研究拠点を設置
  • 2018年:国内製薬会社との初の共同研究を開始、事業をmRNA標的創薬にシフト
  • 2021年7月:東レと資本業務提携(契約規模最大850億円、VIS化合物の持分あり)
  • 2021年11月:塩野義製薬と共同研究契約
  • 2022年12月:ラクオリア創薬と共同研究契約
  • 2023年6月:武田薬品工業と共同研究契約
  • 2024年2月:東京証券取引所グロース市場に上場
  • 2025年度:三菱ガス化学と核酸医薬分野での共同研究開始

現在、東レ、塩野義製薬、ラクオリア創薬、武田薬品工業の4社と共同創薬研究を実施中で、これに加えて秘密保持契約(CDA)下で28社と交渉を進めているとされています(決算説明資料より)。収益モデルは、契約一時金・研究支援金といった短期的な収入に加え、研究の進捗に応じたマイルストーン収入、将来の上市後のロイヤリティ・販売マイルストーンという「短期〜長期」の多段階収益構造を志向している点が特徴です。

2. 業績・財務情報

まず押さえておきたいのは、同社はまだ黒字化していない開発段階のバイオベンチャーであるという点です。 医薬品の研究開発型企業では、パイプラインが上市(販売開始)に至るまで先行投資がかさみ、赤字が続くことは珍しくありません。

売上高・利益の推移

決算期 事業収益(売上高) 営業利益 経常利益 当期純利益
2023年12月期 360百万円 37百万円 - 33百万円
2024年12月期 194百万円 △212百万円 △233百万円 △236百万円
2025年12月期 91百万円(前期比△53.2%) △396百万円 △390百万円 △425百万円
2026年12月期(会社予想) 113百万円(前期比+24.2%) △569百万円 △564百万円 △567百万円

(2023年12月期の数値は企業サイト上では確認できず、外部データサービス「ログミーファイナンス」の情報を参考値として掲載しています。2024年12月期・2025年12月期・2026年12月期予想の数値は、同社決算説明資料(2026年2月12日付)に基づきます。)

2025年12月期は事業収益が前期比53.2%減の91百万円にとどまり、営業損失・経常損失・純損失のいずれも前期から拡大しました。 収益内訳はマイルストーン収入10百万円、研究支援金等81百万円で、契約獲得やマイルストーン達成のタイミングに収益が左右されやすい構造がうかがえます。一方で事業費用は487百万円(前期比19.7%増)に拡大しており、内訳は研究開発費215百万円、販売費及び一般管理費272百万円です。2026年12月期は会社予想でも赤字幅がさらに拡大する見通し(純損失567百万円)となっており、新川崎研究所への移転などの成長投資を先行させる計画であることが背景にあります。

直近四半期の状況(参考:外部データサービスの情報)

企業サイトで四半期推移の一覧は確認できなかったため、以下は外部データサービス(松井証券)を情報源とした参考値です。

項目 2026年12月期第2四半期(単独) 2026年12月期第2四半期累計(上半期)
売上高 19百万円 36百万円
営業利益 △124百万円 △246百万円
経常利益 △123百万円 △243百万円
純利益 △130百万円 △386百万円

上半期だけで純損失386百万円と、通期会社予想(純損失567百万円)の約68%に相当する赤字をすでに計上している点は注意が必要です。 ただし、市場関係者向けの解説記事では「プラットフォーム事業は概ね計画通り、自社パイプラインも順調に進捗」とのコメントも出ており、費用の期ズレなど一時的な要因が影響している可能性もあります。この点は次回以降の決算での確認が望まれます。

財務指標(外部データサービスの情報を含む)

項目 2024年12月期末 2025年12月期末 2026年12月期第2四半期末
総資産 2,248百万円 1,884百万円 1,519百万円
自己資本比率 98.2% 94.6% 92.0%
現金及び預金 173百万円 325百万円 523百万円

自己資本比率は90%台後半と極めて高水準です。※自己資本比率とは、総資産のうち返済不要の自己資本が占める割合で、財務の安定性を示す指標です。これは上場時の新株発行による調達資金が厚いためで、借入への依存度が低いことを意味します。一方で、総資産・純資産は赤字計上に伴い年々減少しており、手元資金の残存期間(バーンレート)は今後の重要な確認ポイントになります。なお、企業サイトで開示されている2025年12月期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローが173百万円のプラス、投資活動によるキャッシュフローが△299百万円となっています。

ROE・ROAについては、純損失が続いているため意味のある形での算出・比較が難しく、本レポートでは記載を見送ります。

3. 成長戦略・将来性

企業サイトで確認できる中期的な方針として、2025〜2027年度の3か年について「年間新規契約締結2件」「年間パイプライン創出1本」を重点KPIとする計画が示されています。2025年度の実績は新規契約3件・パイプライン創出1本と、この時点ではKPIを上回って推移したとされています。2026年度の重点施策としては、①新規契約2件の締結、②パイプライン2本目の創出、③自社パイプライン1(後述)の非臨床試験開始、④新川崎研究所への移転完了、が掲げられています。

なお、決算説明資料には売上高や利益の具体的な数値目標(中期経営計画)は明記されておらず、上記のような契約件数・パイプライン創出数といった活動KPIが中心である点は留意が必要です。 経営方針としては、パイプラインのライセンスアウトによる収益を保守的に見込まない計画としたうえで、将来的には自社創薬による「スペシャリティファーマ化」を長期目標に掲げています。

既存契約に基づく収益ポテンシャル(会社発表・将来の一種のシナリオ値)

決算説明資料では、既存の共同研究契約に基づく収益の“ポテンシャル”(あくまで契約上の上限値であり、実現を保証するものではない点に注意)として、以下のような数値が示されています。

  • 短期収益(研究期間中の契約一時金・研究支援金等):最大1,050百万円
  • 中期収益(開発期間中のマイルストーン等):最大8,050百万円
  • 長期収益(販売期間中のロイヤリティ等):最大1,940百万円
  • 2025年12月時点での累計獲得収益:約921百万円

自社パイプラインについては、急性腎不全を対象とする「パイプライン1(p53 ASO)」が特許出願済みで非臨床試験段階に進む計画のほか、ALS等を対象とする候補(TDP-43 MP20 ASOなど)も研究段階にあるとされています。パイプライン1については、年間150億円×8年で最大1,200億円規模の売上ポテンシャルがあるとの試算も示されていますが、これは非臨床段階の候補であり、臨床試験の成否によって大きく変動しうる将来の仮定値である点に注意が必要です。

2025年度からは三菱ガス化学とも核酸医薬分野で新たな共同研究を開始しており、提携先の広がりが続いています。設備投資としては、公募増資資金を用いた研究開発推進・設備拡充・人的資本拡充・マーケティングへの投資計画が示されていますが、具体的なM&A方針についての記載は確認できませんでした。

4. 株主還元

同社は上場以来、配当を実施しておらず、当面も無配の方針です。 経営方針として「将来の株主価値を高める事業に経営資源を振り向け、事業を計画的に実行し成長を実現していく」ことを掲げており、内部留保を研究開発投資や人材確保に充てる考えを示しています。開発段階のバイオベンチャーでは、利益が出るまでの期間は配当より事業投資を優先するケースが一般的であり、同社もこの類型に当てはまります。

自己株式取得(自社株買い)についての具体的な方針は、確認できた開示資料の範囲では明記されていませんでした。株主優待制度についても、確認できた資料の中に記載は見当たりませんでした。

5. ガバナンス・リスク

取締役会・監査役会の構成

役員体制は、代表取締役社長・中村慎吾氏(創業者、武田薬品工業やDow Chemical Japan等での経歴を持つ)のほか、取締役(執行役員)2名(管理部長・萩原宏昭氏、事業開発部長・甲田伊佐男氏)、社外取締役2名(小南欽一郎氏、佐藤知子氏)の合計5名で構成されています。監査役は常勤監査役1名(濵野英二氏)と社外監査役2名(公認会計士の廣岡穣氏、弁護士の若林美奈子氏)の3名体制です。取締役5名中2名(40%)が社外取締役、監査役3名中2名(67%)が社外監査役となっており、小規模な組織ながら外部人材による監督体制を一定程度確保している構成といえます。

政策保有株式(取引関係の維持などを目的とした他社株式の保有)の状況については、確認できた資料の範囲では具体的な記載を見つけることができませんでした。この点は有価証券報告書の該当セクションを個別にご確認いただくことをおすすめします。

主なリスク要因

企業サイト・関連の開示情報をもとに整理すると、主なリスク要因として以下が挙げられます。

  • 収益の変動性:契約一時金やマイルストーン収入は臨時性が高く、収益が期によって大きく変動しやすい
  • 創薬研究の不確実性:医薬品開発は成功確率が低く、提携先製薬会社の意思決定や開発方針にも左右される
  • 自社パイプライン事業の不確実性:現時点でライセンスアウトの実績がなく、収益化までの道筋に不確実性が残る
  • 技術優位性の維持:AI創薬分野は競争が激しく、競合他社の技術進展により相対的な優位性が失われる可能性
  • 知的財産権の確保:特許出願が認められない、または既存特許が無効化されるリスク
  • 情報セキュリティ:研究データや提携先情報の漏洩リスク
  • 小規模組織であることのリスク:人材採用計画の遅延や人材流出が事業運営に影響を及ぼす可能性
  • 特定人物への依存:創業者である代表取締役など経営幹部への依存度が高い
  • 自然災害リスク:災害発生時の研究活動継続への影響

赤字が継続する中で、資金調達(増資等)や事業計画の見直しが必要になる可能性がある点も、投資判断にあたって留意すべきポイントの一つです。 これらのリスクの詳細および網羅的な内容は、有価証券報告書の「事業等のリスク」セクションで直接ご確認いただくことを推奨します。

6. 株主構成・株価情報

以下は、企業サイトおよび外部データサービス(ログミーファイナンス、FISCO等)を情報源とした情報です。

  • 発行済株式総数:6,487,114株(2025年12月末現在、企業サイトより)
  • 株主数:3,284名(外部データサービスの情報)
  • 単元株数:100株
  • 配当基準日:毎年6月30日、12月31日(企業サイトより)

大株主上位(外部データサービスの情報、持株比率順)

株主名 持株比率
中村慎吾(代表取締役社長) 21.6%
三菱瓦斯化学株式会社 11.3%
New Life Science1号投資事業有限責任組合 8.6%
三菱UFJライフサイエンス1号投資事業有限責任組合 7.9%
IEファスト&エクセレント投資事業有限責任組合 5.1%

創業者である代表取締役社長が筆頭株主として2割超を保有しているほか、上位株主にはベンチャーキャピタル(投資事業組合)や事業会社(三菱瓦斯化学)が名を連ねており、上場からまだ日が浅いグロース企業らしい株主構成といえます。

株価情報(参考:企業サイト以外の情報源)

以下は企業サイトには記載がなく、外部データサービス(2026年8月28日時点)を情報源とした参考数値です。

  • 株価:430円前後
  • 時価総額:約27.9億円
  • PER:算出不可(純損失のため)
  • PBR:1.72倍(2025年12月期末基準)
  • 配当利回り:無配のため該当なし

7. まとめ

Veritas In Silicoは2016年設立、2024年2月上場のAI創薬ベンチャーで、独自の解析技術「aibVIS」を武器に、東レ・塩野義製薬・ラクオリア創薬・武田薬品工業という大手製薬会社4社との共同研究を進めています。 mRNA標的低分子医薬品と核酸医薬品(ASO)という2つのアプローチを組み合わせ、契約一時金からマイルストーン、将来のロイヤリティまで多段階の収益を積み上げる事業モデルを志向しています。

一方で、2025年12月期は減収・赤字幅拡大となり、2026年12月期は会社予想でもさらに赤字が拡大する見通しです。2026年12月期第2四半期(上半期)の時点で、通期純損失予想の約7割に相当する赤字をすでに計上している点も含め、業績面では開発段階特有の不確実性が大きい銘柄といえます。自己資本比率は90%台と財務基盤は現時点で安定していますが、赤字が続く中での手元資金の推移や、将来的な追加資金調達の可能性には注意を払う必要があります。配当は上場来実施されておらず、当面は研究開発への再投資を優先する方針です。

注意すべき点としては、①収益がまだ小規模かつ変動が大きいこと、②パイプラインの大部分が非臨床段階以前にあり収益化までの期間が長いこと、③政策保有株式や自己株式取得方針など一部の開示情報が確認できなかったこと、が挙げられます。逆に注目点としては、大手製薬会社との複数の共同研究契約を有していること、独自のインシリコ創薬技術という差別化要素を持つこと、財務健全性(自己資本比率)が高いことが挙げられます。

同業他社(他のAI創薬・バイオベンチャー等)との比較による業界内での位置づけについては、本レポートは企業サイト・IR資料を中心にまとめているため、他社データとの比較が別途必要です。


本レポートは株式会社Veritas In Silicoの公式サイト・IR資料(会社概要、役員プロフィール、株式基本情報、決算説明資料等)を主な情報源として作成した情報提供を目的とするものであり、投資勧誘や特定銘柄の売買を推奨するものではありません。企業サイトで確認できなかった大株主構成、資本金、四半期業績詳細、株価情報、リスク要因の一部については、ログミーファイナンス、FISCO、松井証券、キタイシホン等の外部データサービスを参考情報源としており、本文中にその旨を明記しています。数値は情報源によって集計方法や時点が異なる場合があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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