企業概要
技研ホールディングス株式会社(証券コード:1443、東京証券取引所スタンダード市場)は、東京都千代田区に本社を置く純粋持株会社です。2018年1月に、傘下の事業会社である技研興業株式会社が単独株式移転(既存の会社が新設の持株会社の完全子会社となる組織再編の手法です)によって設立され、東京証券取引所市場第二部に新規上場しました。これに伴い、技研興業株式会社自体は2017年12月に上場廃止となっています。
技研興業株式会社の歴史は古く、1958年に徳島県徳島市で設立され、消波ブロック製造用の型枠貸与事業からスタートしました。1962年に東証二部、1968年には東証一部・大阪証券取引所一部にも上場しましたが、1970年に会社更生手続(経営が悪化した企業が裁判所の監督のもとで再建を図る法的手続きです)の開始を申し立て、両取引所で上場廃止となる歴史も経験しています。1973年に更生手続を終結し、その後事業を再建、2018年の持株会社体制移行を経て現在に至ります。
現在のグループは、持株会社である技研ホールディングス(単体従業員はわずか1名で、実質的な事業運営は完全子会社の技研興業株式会社が担っています)のもと、以下の4つのセグメントで事業を展開しています。
- 土木関連事業:法面保護工事(斜面の崩落を防ぐ工事)が主体で、官公庁の公共投資に依存する事業です。
- 建築関連事業:医療施設向けの放射線防護・電磁波シールド工事等が主体で、グループ売上の過半(2026年3月期実績で約52%)を占める中核事業です。
- 型枠貸与関連事業:消波根固ブロック製造用型枠の賃貸およびコンクリート二次製品の販売で、創業事業にあたります。
- その他:不動産賃貸事業、海外での事業等。
業績・財務情報
2026年3月期(第9期)連結業績
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 49.06億円 | 46.75億円 | ▲4.7% |
| 営業利益 | 6.23億円 | 7.01億円 | +12.5% |
| 経常利益 | 7.70億円 | 8.93億円 | +15.9% |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 4.92億円 | 6.14億円 | +24.7% |
| 自己資本比率 | 67.5% | 70.7% | +3.2pt |
| ROE(自己資本利益率) | 4.5% | 5.1% | +0.6pt |
2026年3月期は、増収減収と増益増益が分かれる決算となりました。売上高は前期比4.7%減の46.75億円となった一方、営業利益は前期比12.5%増の7.01億円、経常利益は前期比15.9%増の8.93億円、純利益は前期比24.7%増の6.14億円と、いずれの利益も増益を確保しています。会社側は、コストの見直しによる固定費削減が増益の主因としています。
セグメント別の状況は次のとおりです。
| セグメント | 売上高 | 増減率 | 営業利益 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| 土木関連事業 | 8.34億円 | +14.5% | 1.38億円 | +38.5% |
| 建築関連事業 | 24.20億円 | ▲11.4% | 4.28億円 | +13.7% |
| 型枠貸与関連事業 | 13.47億円 | ▲1.6% | 3.76億円 | ▲12.1% |
| その他 | 0.74億円 | ▲3.5% | 0.06億円 | ▲35.3% |
最大セグメントである建築関連事業は、医療施設向けの新築・改修物件数の減少により受注高・売上高がともに減少しましたが、コスト効率化により営業利益は増益を確保しました。一方、土木関連事業は受注高が前年同期比60.3%増の14.56億円と大きく伸び、売上高・利益ともに好調でした。
5年間の業績推移が示す「減収増益」トレンド
同社の過去5年間(2022年3月期~2026年3月期)の推移を見ると、特徴的なパターンが浮かび上がります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(億円) | 81.80 | 54.80 | 51.70 | 49.06 | 46.75 |
| 経常利益(億円) | 10.34 | 5.17 | 6.40 | 7.70 | 8.93 |
| 純利益(億円) | 4.67 | 3.29 | 4.44 | 4.92 | 6.14 |
| 自己資本比率 | 61.9% | 60.6% | 64.2% | 67.5% | 70.7% |
売上高はこの5年間で約42.8%減少しています。主因は主力の建築関連事業における物件数の減少です。一方で、経常利益は2023年3月期に一時的に落ち込んだものの、その後は一貫して回復基調をたどり、純利益は5年間で約31.5%増加しました。これは、売上規模が縮小する中でもコスト構造の見直しや、後述する保有有価証券からの配当収入が利益を下支えしていることが背景にあると考えられます。自己資本比率も61.9%から70.7%へと5年連続で上昇しており、財務基盤は着実に強化されています。
2027年3月期第1四半期(2026年4月~6月)の状況
| 項目 | 前年同四半期 | 当第1四半期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 10.19億円 | 11.65億円 | +14.3% |
| 営業利益 | 1.56億円 | 2.01億円 | +28.9% |
| 経常利益 | 2.79億円 | 3.48億円 | +24.6% |
| 親会社株主に帰属する四半期純利益 | 2.09億円 | 2.37億円 | +13.3% |
第1四半期は増収増益と、通期に先立ち良好なスタートを切りました。ただし、受注高は前年同四半期比44.9%減の11.85億円となっており、これは前期に積み上がった大型受注の反動によるものと見られます。会社側は通期業績予想を据え置いており、2027年3月期通期は売上高49.00億円(前期比+4.8%)、営業利益7.50億円(+6.9%)、経常利益9.40億円(+5.3%)、純利益6.40億円(+4.3%)、1株当たり当期純利益39.42円を見込んでいます。
なお、経常利益と営業利益の差額(営業外損益)には、保有する投資有価証券からの受取配当金が大きく寄与しており、2027年3月期第1四半期だけで1.57億円の受取配当金を計上しています。これは同四半期の営業利益2.01億円の約8割に相当する規模であり、後述する大規模な政策保有株式の存在が、同社の収益構造において無視できない役割を果たしていることがうかがえます。
成長戦略・将来性
同社の中核事業である建築関連事業(医療施設向け放射線防護・電磁波シールド工事)は、新築・改修物件数の減少という構造的な逆風に直面しており、直近5年間の売上高減少の主因となっています。一方で、土木関連事業では2026年3月期に受注高が前年同期比60.3%増となるなど、公共投資関連の需要を取り込む動きも見られます。
会社側は、有価証券報告書において「地道な情報収集と受注活動」「粗利益率の改善」による「変化に強い企業体質」の構築を基本方針として掲げています。派手な成長投資や新規事業展開よりも、既存3事業(土木・建築・型枠貸与)の受注効率化とコスト管理の徹底によって、縮小する市場環境の中でも利益水準を維持・向上させる、堅実な経営スタイルが特徴といえます。
あわせて、保有する投資有価証券(後述)からの配当収入も、業績の下支え役として一定の存在感を持っています。この点は一般的な事業会社の成長戦略とは性質が異なり、資産運用的な側面を併せ持つ持株会社としての特徴といえます。同業他社と比較した場合の競争優位性や、業界内での位置づけについては他データとの比較が必要です。
株主還元
同社は2026年3月期、1株当たり配当額1.10円を実施しており(2026年6月25日開催の定時株主総会での決議を経て確定)、2027年3月期も同額の配当を予想しています。配当は年1回の期末配当を基本方針としており、中間配当は定款上可能とされているものの、現状は実施していません。
連結ベースの1株当たり当期純利益(37.79円、2026年3月期実績)に対する配当性向は約2.9%と、利益水準に対して配当額は低めの水準にとどまっています。過去5年間の配当額は1.00円~1.10円で安定的に推移しており、大きな増配・減配は行われていません。株主還元よりも内部留保を通じた財務基盤の強化を優先する方針がうかがえ、実際に自己資本比率は5年連続で上昇しています。
ガバナンス・リスク
同社は監査等委員会設置会社の体制を採っています。有価証券報告書提出日(2026年6月24日)現在の取締役会は、代表取締役社長・佐々木ベジ氏と取締役・久田利一氏の2名(監査等委員である取締役を除く)、および監査等委員である取締役3名(全員社外取締役)の計5名で構成されています。なお、2026年6月25日開催の定時株主総会において取締役2名の選任議案が上程されており、可決されれば取締役は5名(うち社外取締役3名)体制となる予定です。取締役会は年15回開催され、各取締役の出席率は93%~100%と高水準です。
ガバナンス面で特筆すべき点として、代表取締役社長の佐々木ベジ氏が、当社の完全子会社である技研興業株式会社の代表取締役を兼務するとともに、当社の主要株主である「その他の関係会社」2社(フリージア・マクロス株式会社の取締役会長、夢みつけ隊株式会社の代表取締役)のトップも兼務している点が挙げられます。この2社は合計で当社株式の約49.8%を保有する大株主であり、社外取締役の一部(小畑元氏、多胡英文氏)もフリージア・マクロス株式会社の社外取締役(監査等委員)を兼務しています。グループ経営の一体性という観点ではプラスに働き得る一方、経営トップおよび一部社外取締役の人的関係が複数の関係会社間で重複している点は、ガバナンス構造として理解しておくべき特徴です。
事業等のリスクとしては、公共事業への依存度が高い建設市場の変動リスク、施工中の事故・災害リスク、建設資材価格等の変動・調達リスク、売上債権の貸倒損失リスク、建設業法等の法的規制、瑕疵担保責任(契約不適合責任)などが開示されています。いずれも建設関連事業を営む企業に一般的なリスクであり、特別なリスクの記載はありません。
また、同社は多額の政策保有株式(純投資目的以外で保有する株式、いわゆる持ち合い株式)を保有している点も特徴です。2026年3月期末時点で、非上場株式以外の政策保有株式は15銘柄・貸借対照表計上額の合計は77.90億円にのぼり、これは総資産(182.76億円)の約42.6%を占める規模です。主な銘柄はナイス株式会社(42.50億円)、株式会社高知銀行(16.66億円)、日建工学株式会社(6.34億円)などで、いずれも「中長期的な事業戦略上必要」との理由で保有されています。有価証券報告書では、政策保有株式の保有について「具体的な方針はありません」と明記されており、保有の合理性を検証する具体的な方法は「今後の検討課題」としています。この巨額の政策保有株式は、自己資本比率の上昇や含み益による純資産の押し上げに寄与する一方、資本効率(ROEなど)の観点や、保有方針の明確性という観点では留意すべき点といえます。
株主構成・株価情報
2026年3月31日現在の大株主は以下のとおりです(発行済株式総数に対する所有株式数の割合)。
| 株主名 | 持株比率 |
|---|---|
| フリージア・マクロス株式会社 | 27.5% |
| 夢みつけ隊株式会社 | 22.3% |
| 大和証券株式会社 | 3.2% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 2.2% |
| 楽天証券株式会社 | 1.8% |
| 株式会社SBI証券 | 1.5% |
| 上位10名合計 | 63.6% |
前述のとおり、上位2位のフリージア・マクロス株式会社と夢みつけ隊株式会社は合計で約49.8%を保有しており、いずれも代表取締役社長・佐々木ベジ氏が経営トップを務める会社です。実質的に同氏の強い影響下にある株主構成といえ、経営の安定性という観点ではプラスに働く一方、株式の流動性という観点では留意が必要な構造です。
株価情報(Yahoo!ファイナンス表示、2026年9月11日時点)は以下のとおりです。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 268円 |
| 時価総額 | 約43.5億円 |
| PER(会社予想ベース) | 6.80倍 |
| PBR(実績ベース) | 0.33倍 |
| 配当利回り(会社予想) | 0.41% |
| ROE(実績) | 5.14% |
| 自己資本比率 | 70.7% |
PER(株価収益率)は株価が1株当たり利益の何倍かを示す指標、PBR(株価純資産倍率)は株価が1株当たり純資産の何倍かを示す指標です。特に注目されるのはPBRが0.33倍と、1株当たり純資産(2026年3月期末時点で796.01円)に対して株価が大きく下回る水準にある点です。これは、多額の政策保有株式を含む資産内容が市場から十分に評価されていない、いわゆる「資産価値に対する株価の割安感」を示す一つの見方ができますが、逆に言えば市場がその資産効率性や成長性を慎重に見ている可能性も考えられます。株価は変動するため、最新の数値は証券会社のサイト等でご自身にてご確認ください。
まとめ
技研ホールディングス(1443)は、土木・建築・型枠貸与の3事業を中核とする建設関連の持株会社で、2018年に完全子会社・技研興業株式会社の単独株式移転により設立されました。過去5年間で売上高は約4割減少した一方、経常利益・純利益は回復基調をたどり、自己資本比率も5年連続で上昇するという、「減収」と「増益・財務基盤強化」が同時に進む特徴的な業績パターンを示しています。
その背景には、コスト効率化の取り組みに加え、総資産の4割超を占める政策保有株式からの配当収入が利益を下支えしている構造があります。一方で、政策保有株式について具体的な保有方針が定められていない点、経営トップが主要株主2社の経営トップも兼務している人的関係の重複など、ガバナンス面で留意すべき点も見られます。株価は1株当たり純資産を大きく下回るPBR0.33倍の水準にあり、資産内容と市場評価のギャップをどう読み解くかが、同社を検討するうえでの一つの視点となりそうです。