【143A】イシン

2026/09/12

企業分析

t f B! P L

企業・自治体の課題解決を複数の事業領域で支援するイシン(証券コード143A)について、2026年3月期有価証券報告書および2027年3月期第1四半期決算短信をもとに、ファンダメンタルズ(企業の実力を示す基礎的な情報)を初心者向けに解説します。

1. 企業概要

イシン株式会社(証券コード:143A、東京証券取引所グロース市場)は、東京都港区に本社を置く、複数の事業領域で企業・自治体の課題解決を支援する会社です。2005年に創業者・明石智義氏(現代表取締役会長)が「株式会社幕末」として設立し、2014年に現在の社名「イシン」へ商号変更しました。2024年3月にはTSEグロース市場に新規上場しています。

社是に「事業家創発」を掲げ、「世界的な視野を持った事業家たちが差別化された事業を通じて社会の進化に貢献する」という理念のもと、以下の4つの事業セグメントを展開しています。

  • HR事業:企業の採用課題解決を目的とした人材紹介やRPO(採用業務アウトソーシング)サービス。2025年4月に新設された最も新しいセグメントです。
  • 公民共創事業:地方自治体と民間企業をつなぐ事業で、自治体向けマーケティング・営業支援を展開。1999年創刊の業界メディア『自治体通信』を軸としています。
  • メディアPR事業:成長企業のブランディング・マーケティング支援に加え、M&A仲介支援を行う事業。1999年創刊の老舗メディア『ベンチャー通信』や、成長企業向け有料会員制サービス「ベストベンチャー100」を展開しています。
  • グローバルイノベーション事業:日系大手企業と国内外のスタートアップをつなぐ、情報ポータルSaaS「BLITZ Portal」(約400万社以上の企業データベースを保有)などを提供しています。

各事業が長年培ってきたメディア・顧客ネットワークを相互活用することで、事業間シナジーを狙うビジネスモデルが特徴です。

2. 業績・財務情報

2026年3月期(第21期)通期実績

項目2025年3月期2026年3月期増減率
売上高13.93億円14.29億円+2.5%
営業利益2.45億円0.50億円▲79.6%
経常利益2.12億円0.26億円▲87.6%
親会社株主に帰属する当期純利益1.77億円0.05億円▲97.4%
自己資本比率55.2%57.7%+2.5pt

2026年3月期は、増収を確保した一方で、利益面は大幅な減益となりました。主な要因は、2025年4月に新設したHR事業への先行投資です。人材紹介サービスの立ち上げに加え、RPOサービスを展開する株式会社レプセルを子会社化したことに伴う採用人件費・業務委託費・マーケティング費用の増加により、販売費及び一般管理費が前期比+21.8%増加しました。また、自治体向けイベント企画会社の株式会社OK Junctionの子会社化や、業容拡大に伴う本社移転(品川へ移転)に関連する費用も減益要因となっています。

なお、特別損失として過年度決算訂正に係る費用2,305万円を計上している点にも触れておく必要があります。同社は2025年11月14日付で、第19期(2024年3月期)・第20期(2025年3月期)の有価証券報告書、新規上場時の有価証券届出書、及び一部の半期報告書について訂正報告書を提出しており、今回の特別損失はこれに関連する費用です。訂正の詳細な内容は今回参照した資料には記載がないため、この点についてはIR資料等で別途ご確認いただくことをお勧めします。

同社は業績の四半期偏重が大きい点も特徴です。2026年3月期の四半期別売上構成比は第1四半期22.1%、第2四半期26.8%、第3四半期20.6%、第4四半期30.5%となっており、第3四半期は営業損失(△5,178万円)を計上する一方、第2・第4四半期に売上・利益が集中する季節性があります。これは、公民共創事業における自治体の予算編成に合わせたプロモーション需要(第2四半期)や、事業法人の年度末に向けた予算消化需要(第4四半期)によるものとされています。

2027年3月期第1四半期(2026年4月~6月)

項目前年同四半期当第1四半期増減率
売上高3.15億円3.40億円+7.8%
営業利益0.06億円0.12億円+104.0%
経常損失△0.15億円△0.10億円損失縮小
親会社株主に帰属する四半期純利益0.05億円0.08億円+58.8%

HR事業の大幅増収(セグメント売上高7,464万円、前年同期比+429.1%。主にレプセルの通期寄与)に牽引され、売上高は第1四半期として過去最高を更新しました。もっとも、経常段階では投資事業組合運用損(東南アジア・インド向けベンチャーキャピタルファンドの運用損益)の影響もあり、依然として経常損失の状態が続いています。会社側は通期業績予想を据え置いており、2027年3月期通期は売上高16.52億円(前期比+15.6%)、営業利益0.51億円(+1.9%)、経常利益0.27億円(+5.0%)、親会社株主に帰属する当期純利益0.33億円(+608.8%)を見込んでいます。純利益の大幅な伸び率は、前期に計上した決算訂正関連の特別損失(一過性要因)が今期は発生しない前提に基づくものである点に留意が必要です。

3. 成長戦略・将来性

同社は2025年5月に公表した中期経営計画において、2030年3月期に売上高45.1億円、営業利益9.0億円(営業利益率20%)の達成を目標としています。計画では、HR事業及び新規事業を「高成長領域」、公民共創事業・メディアPR事業・グローバルイノベーション事業を「継続成長及び安定収益基盤」と位置付けており、2027年3月期までを積極投資フェーズ(グループ売上成長率15%目標)、2028年3月期以降を収益化フェーズと定義しています。

成長戦略の柱は主に3つです。1つ目はHR事業への継続的な成長投資で、キャリアコンサルタントの採用やマーケティング費用への積極投資を通じた事業拡大を図るとしています。2つ目は既存事業(公民共創・グローバルイノベーション・メディアPR)における支援領域の拡張で、営業BPOサービスの本格展開や、生成AI機能の実装などが進められています。3つ目はM&A及び新規事業開発で、2025年6月に開始したM&A仲介事業や、株式会社OK Junctionの子会社化などが該当します。

小型のグロース市場企業らしく、積極的な先行投資フェーズにあることが業績の重荷になっている段階ですが、2030年3月期目標達成に向けた進捗ペースや、HR事業の収益化タイミングについては、今後の四半期開示を通じて確認していく必要があります。なお、これらの成長戦略が同業他社と比較してどの程度の競争優位性を持つか、業界内での位置づけについては他データとの比較が必要です。

4. 株主還元

同社は現時点で配当を実施しておらず、実施の可能性及び時期についても未定としています。会社側は、成長過程にあることから内部留保の充実を図り、事業拡大・事業効率化のための投資に資金を充てることが、株主に対する最大の利益還元につながるとの考え方を示しています。

これは赤字企業や成長初期段階の企業では一般的な方針であり、株主還元よりも成長投資を優先する姿勢は今回の業績動向(HR事業への積極投資による一時的な減益)とも整合的です。配当を期待する投資家にとっては留意すべき点ですが、成長投資の効果が今後の業績にどう表れるかが焦点になります。

5. ガバナンス・リスク

同社は監査等委員会設置会社の体制を採っています。取締役会は取締役6名(うち社外取締役3名)で構成され、監査等委員会は監査等委員である社外取締役3名で構成されています。取締役会・監査等委員会ともに原則月1回開催される体制です。

事業等のリスクとしては多岐にわたる項目が開示されていますが、特に注目すべき点は以下の3つです。

1つ目は前述の有価証券報告書等の訂正です。第19期・第20期の有価証券報告書、上場時の有価証券届出書、内部統制報告書、一部の半期報告書について訂正報告書が提出されており、開示の正確性という観点で投資家が注視すべき事項といえます。

2つ目は当社株式の流動性についてのリスクです。有価証券報告書では「当社の流通株式時価総額及び流通株式比率は、東京証券取引所が定める上場維持基準に近接しております」と明記されており、上場維持基準への抵触リスクが会社自身によって開示されています。小型のグロース市場銘柄に特有のリスクとして認識しておく必要があります。

3つ目はストックオプションによる希薄化リスクです。本書提出日現在のストックオプションによる潜在株式数は85,400株で、発行済株式総数の4.42%に相当します。

このほか、為替相場の変動(東南アジア・インド向けベンチャーキャピタルファンドを保有)、M&Aに伴うのれん減損リスク、業績の季節変動など、成長投資型の小型企業らしいリスク要因が並んでいます。

6. 株主構成・株価情報

2026年3月31日現在の大株主は以下のとおりです(自己株式を除く発行済株式数に対する割合)。

株主名持株比率
株式会社Bright Stone39.32%
明石 智義(代表取締役会長)22.36%
株式会社Enjin3.10%
岡田 賢次2.86%
村口 和孝2.86%
上位10名合計77.22%

株式会社Bright Stoneは創業者・明石智義氏の資産管理会社とみられ、同社と明石氏本人の直接保有分を合わせると約61.7%に達します。創業者関連の保有比率が非常に高いオーナー経営企業である点は、経営の一貫性という観点ではプラスに働く一方、前述の株式流動性リスクとも関連する構造といえます。

株価情報(Yahoo!ファイナンス表示、2026年8月7日時点)は以下のとおりです。

項目数値
株価698円
時価総額約13.5億円
PER(会社予想ベース)40.89倍
PBR(実績ベース)1.11倍
配当利回り0.00%(無配)
ROE(実績)0.33%
自己資本比率57.7%

※PER(株価収益率)は株価が1株当たり利益の何倍かを示す指標、PBR(株価純資産倍率)は株価が1株当たり純資産の何倍かを示す指標です。PER40.89倍という水準は、直近期の当期純利益が一時的に大きく落ち込んでいることを踏まえると、必ずしも「割高」を意味するものではなく、来期以降の業績回復・成長投資の成果に対する期待も織り込まれていると考えられます。株価は変動するため、最新の数値は証券会社のサイト等でご自身にてご確認ください。

7. まとめ

イシン(143A)は、HR事業・公民共創事業・メディアPR事業・グローバルイノベーション事業の4つの領域で企業・自治体の課題解決を支援する、東証グロース市場の成長企業です。2026年3月期は、2025年4月に新設したHR事業への積極的な先行投資により、増収ながら営業利益・経常利益・純利益はいずれも大幅な減益となりました。これは中期経営計画に基づく意図的な成長投資フェーズの結果であり、2027年3月期も引き続き積極投資フェーズと位置付けられています。

一方で、過去の有価証券報告書等の訂正、株式の流動性が上場維持基準に近接している旨の開示、無配方針など、小型グロース市場企業ならではの留意点も複数あります。創業者関連の保有比率が約61.7%と高いオーナー経営企業である点も踏まえ、2028年3月期以降とされる「収益化フェーズ」でHR事業を中心とした投資がどのように収益に結びついていくか、今後の四半期開示を注視していく価値があります。


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