【1430】ファーストコーポレーション

2026/09/12

企業分析

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分譲マンションの建設施工と不動産事業を手がけるファーストコーポレーション(証券コード1430)について、2026年5月期決算短信および有価証券報告書をもとに、ファンダメンタルズ(企業の実力を示す基礎的な情報)を初心者向けに解説します。

1. 企業概要

ファーストコーポレーションは、東京都杉並区に本社を置く分譲マンション建設に特化した中堅ゼネコンです。2011年6月に設立され、2015年3月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場、2016年12月に東証一部へ市場変更しました。その後2022年4月にプライム市場へ移行しましたが、2023年10月には自らの選択によりスタンダード市場へ移行するという珍しい経緯をたどっています。

社是に「より良質な住宅を供給し、豊かな住環境に貢献する」を掲げ、「安全と品質は全てのものに優先する」を経営理念としています。事業は「建設事業」(分譲マンション建設工事の施工)と「不動産事業」(マンション用地の売買・仲介、分譲マンション販売代理)の2セグメントで構成されています。

同社の最大の特徴は、「造注方式」という独自のビジネスモデルです。一般的な建設会社は、マンション・デベロッパーが提示した仕様に基づき複数社が相見積りする「入札方式」で受注しますが、同社は自ら土地情報を収集してマンション用地を確保し、その土地に建設するマンションの事業企画を作成した上で複数のデベロッパーに提案し、建設工事を特命(競争入札を経ずに)で受注します。この方式により、デベロッパーと対等な立場での条件交渉が可能となり、入札方式より高い利益率の確保が見込めるとされています。主要事業エリアは東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)と九州及び周辺エリアで、工法は施工品質の均一化が図れる鉄筋コンクリート(RC)工法を主体としています。躯体の品質については、法令上の検査に加え自社および第三者機関によるダブルチェックを行うなど、品質管理を重視する姿勢を打ち出しています。

なお、連結子会社であるファーストエボリューション株式会社(不動産事業)は債務超過(300百万円)の状態にありますが、同社グループ全体の財政状態への影響は限定的です。

2. 業績・財務情報

業績の推移

決算期売上高経常利益当期純利益EPS自己資本比率ROE
第12期(2023年5月期)25,544百万円1,979百万円1,365百万円114.80円36.9%18.4%
第13期(2024年5月期)28,485百万円1,422百万円945百万円79.15円35.7%11.5%
第14期(2025年5月期)43,194百万円2,478百万円1,670百万円139.74円39.2%18.3%
第15期(2026年5月期)36,417百万円2,690百万円1,882百万円157.18円34.5%18.0%

※連結ベース。第12期より連結財務諸表を作成しているため、それ以前の連結数値はありません。

第15期(2026年5月期)は、売上高364億円(前期比15.7%減)と減収でありながら、営業利益28.96億円(同12.3%増)、経常利益26.90億円(同8.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益18.82億円(同12.8%増)と、増益を確保しました。 一見すると減収増益は不自然に映りますが、その理由はセグメント別の内訳を見るとわかります。

セグメント売上高(前期比)セグメント利益(前期比)
建設事業272.2億円(+20.2%)30.4億円(+74.4%)
不動産事業88.2億円(△56.5%)11.1億円(△49.4%)

主力の建設事業は大幅増収増益となった一方、不動産事業は前期に事業用地の大型販売など好調な実績があった反動で大きく減少しました。この結果、全社では減収となったものの、収益性の高い建設事業の伸びが不動産事業の落ち込みを補って余りある形で、全体としては増益を確保しています。売上高営業利益率は8.0%(前期6.0%)に改善しました。

自己資本比率は34.5%(前期39.2%)に低下し、ROE(自己資本利益率=株主が出した資金に対する利益効率を示す指標)は18.0%(前期18.3%)とほぼ横ばいの高水準を維持しています。

キャッシュフローと財務体質

第15期の営業活動によるキャッシュフローは98.1億円のマイナス(前期は20.9億円のプラス)と大きく悪化しました。これは、次期以降の「造注方式」案件に向けた仕掛販売用不動産(将来の開発用地の在庫)が95.0億円増加したことが主因で、事業拡大に向けた先行投資的な性格のものです。この資金需要は財務活動によるキャッシュフロー(+71.6億円、長期借入金の実行による)で賄われており、長期借入金は前期末の32.9億円から81.2億円へと大きく増加しました。現金及び現金同等物の期末残高は26.2億円(前期末54.0億円)まで減少しています。

このように、当期は土地在庫への積極投資を借入金の増加で賄った「攻めの投資フェーズ」にあり、自己資本比率の低下や現金残高の減少は、事業拡大に伴う一時的な財務構造の変化として理解する必要があります。もっとも、借入金への依存度が高まっている点は、金利上昇局面においては財務コストの増加要因となりうるため、今後の推移には留意が必要です。

3. 成長戦略・将来性

同社は2026年1月、創業20周年に向けた中長期ビジョン『First VISION 2031』を公表しました。フェーズ1(2026〜2028年)では以下の数値目標を掲げています。

決算期売上高営業利益経常利益親会社株主帰属純利益
2026年5月期(実績)364億円29.0億円26.9億円18.8億円
2027年5月期(計画)440億円35.0億円30.0億円20.7億円
2028年5月期(計画)500億円41.0億円34.0億円23.4億円

※2028年5月期の営業利益目標は、2026年7月15日公表の決算説明資料において41億円へ上方修正されています。

さらにフェーズ2として、2031年5月期に売上高1,000億円を目指す方針も示されています。重点施策は「資本収益性の向上」で、事業推進策として(1)造注方式・共同事業の推進、(2)建築種別の拡大、(3)安全品質管理の強化、(4)業務効率化を、成長投資として(1)人的資本投資、(2)「新4K」(給料が良い・休暇が取れる・希望が持てる・かっこいいなど、建設業界のイメージ刷新を意図した合言葉)の推進、(3)M&Aを掲げています。特に人的資本投資は重点項目とされ、2031年5月期までに従業員数300名以上の体制を目指すとしています(2026年5月期末は連結199名)。

事業環境については、主要エリアである東京圏の2025年(暦年)のマンション着工戸数は40,305戸(前年比21.0%減)、供給戸数は21,962戸(同4.5%減、4年連続減少)と、市況そのものは弱含んでいます。もっとも、2026年(暦年)の供給戸数は4.7%増の23,000戸程度と予想され、引き合い案件も依然活況とされる中、同社の東京圏におけるシェアは約3%にとどまり、伸張の余地は十分にあるとの認識が示されています。当期末の建設事業の受注残高は283.6億円で、次期(2027年5月期)の受注高計画は350億円としています。研究開発活動に関する記載は特にありません。

4. 株主還元

同社は、連結配当性向30%以上を利益還元の方針とし、期末配当を年1回実施することを基本としています。配当実績は、2025年5月期の1株当たり42円から2026年5月期は48円へ増配し、2027年5月期は51円を予想するなど、増配基調が続いています。配当性向は2026年5月期実績で連結30.5%となっており、方針どおりの水準で推移しています。

自己株式については、役員向け株式給付信託(BBT-RS)・従業員向け株式給付信託(J-ESOP)の信託財産として、株式会社日本カストディ銀行(信託E口)が712,300株を保有しているほか、自己保有株式が660,578株(発行済株式の4.94%)あります。当事業年度中の新規の自己株式取得は単元未満株式の買取のみで、大規模な自社株買いは実施されていません。

5. ガバナンス・リスク

同社は2021年8月に監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しました。取締役会は9名で構成され、うち6名が社外取締役(社外取締役比率66.7%)と、中堅企業としては高い独立性を備えた体制になっています。監査等委員会は3名全員が社外取締役で構成されています。任意の指名検討会議・報酬検討会議も設置され、取締役会は月1回以上(当事業年度は20回)開催されています。

政策保有株式(いわゆる持ち合い株式)については、上場株式の保有はなく、非上場株式4銘柄(貸借対照表計上額32百万円)のみであり、政策保有によるガバナンス上の懸念は小さいといえます。

リスク要因としては、(1)分譲マンション市場の着工・供給動向に業績が左右される点、(2)東京圏への事業集中に伴う競合の多さ・地価高騰・人材や協力会社の獲得競争リスク、(3)建設資材価格・労務費の上昇による利益圧迫リスク、(4)特定建設業許可・宅地建物取引業免許など許認可の更新・維持に関するリスク、(5)在庫(仕掛販売用不動産)が長期化した場合の評価減リスクや、共同事業(デベロッパー事業)における事業収支未達リスク、(6)契約不適合責任・重大事故・訴訟等の発生リスク、(7)創業者である代表取締役社長・中村利秋氏への依存度が高い点、(8)気候変動に伴う施工遅延・コスト増リスクが挙げられます。特に(5)は、前述の通り当期に仕掛販売用不動産が大きく積み上がっていることから、今後の市況次第では注視すべき項目です。

6. 株主構成・株価情報

有価証券報告書(2026年5月31日現在)に記載された大株主は次の通りです。

株主名持株比率
中村 利秋(代表取締役社長)16.27%
飯田 一樹10.51%
株式会社中村8.66%
株式会社日本カストディ銀行(信託E口)5.61%
齋藤 みさを4.01%
中村 莉紗1.54%
中村 建二1.54%
堀口 忠美1.54%
NOMURA PB NOMINEES LIMITED OMNIBUS-MARGIN1.08%
横山 一夫0.63%

上位10名の合計は51.40%です。創業者である中村利秋氏本人(16.27%)に加え、資産管理会社とみられる「株式会社中村」(8.66%)や、同姓の親族と見られる株主(中村莉紗氏、中村建二氏、それぞれ1.54%)も名を連ねており、創業家関連の実質的な持株比率は相応に高いとみられます。

発行済株式総数は13,363,540株です。株式会社日本カストディ銀行(信託E口)が保有する712,300株(役員・従業員向け株式給付信託の信託財産)は自己株式には含まれていません。

現在の株価情報(2026年9月4日時点、Yahoo!ファイナンスのデータ)では、株価1,035円、時価総額約138億円、PER(会社予想EPS172.63円ベース)約6.00倍、PBR(実績BPS929.21円ベース)約1.11倍、配当利回り(会社予想)約4.93%となっています。建設業の一般的なPER水準(概ね一桁台)と比較して大きな乖離はなく、PBRも1倍近辺と、市場からの評価は比較的抑制的である一方、配当利回りは相対的に高い水準にあります。株価情報は変動するため、最新の数値は証券会社のサイト等でご確認ください。

7. まとめ

ファーストコーポレーション(1430)は、自らマンション用地を確保して特命受注する「造注方式」という独自のビジネスモデルにより、東京圏を中心に高収益なマンション建設事業を展開してきた中堅ゼネコンです。2026年5月期は、不動産事業の反動減により見かけ上は減収となったものの、収益性の高い建設事業の伸長により増益を確保しました。一方で、将来の造注案件に向けた土地在庫の積み増しを借入金の増加で賄ったことにより、営業キャッシュフローが大幅なマイナスとなり、自己資本比率も低下しており、これは事業拡大に伴う「攻めの投資フェーズ」であると同時に、財務レバレッジが高まっている局面でもあります。2031年5月期に売上高1,000億円を掲げる中長期ビジョン『First VISION 2031』の進捗、東京圏における市場シェア拡大の実現度、そして創業者への依存度や在庫リスクといった留意点を踏まえながら、今後の業績と財務体質のバランスを見ていくことが、この銘柄を理解する上でのポイントとなるでしょう。


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