高校生に特化した就職・進学支援サービスを展開するジンジブ(証券コード142A)について、2026年3月期有価証券報告書および2027年3月期第1四半期決算短信をもとに、ファンダメンタルズ(企業の実力を示す基礎的な情報)を初心者向けに解説します。
1. 企業概要
ジンジブは、大阪市中央区に本社を置き、高校生に特化した新卒採用支援・教育支援サービスを展開する企業です。パーパスに「これからを生きる人の夢を増やす」、ビジョンに「若者に希望を与えるNo.1企業」を掲げ、高校生の就職活動というニッチ市場に経営資源を集中してきました。2024年3月22日に東京証券取引所グロース市場へ上場しています。
沿革を見ると、代表取締役社長の佐々木満秀氏が1998年に個人創業した広告代理店が出発点です。2014年に人材紹介事業として(旧)ジンジブを設立し、2015年8月に現在の主力サービスである高校生向け求人サイト事業を開始、同年に持株会社(株式会社人と未来グループ)を設立しました。2020年1月にグループ内の事業会社を吸収合併し、高卒就職支援事業に一本化した上で社名を「株式会社ジンジブ」に統一しています。2026年4月には、進路情報事業を手がける株式会社ジンジブキャリアを連結子会社化し、進学支援領域にも事業を拡大しました。
事業内容の柱は、高校生向け求人情報サイト「ジョブドラフトNavi」で、掲載企業から掲載料を受領するストック型の収益モデルです。このほか、高校生向け職業体験・合同企業説明会「おしごとフェア」「ジョブドラフトFes」「先生Fes」の運営(企業からの参画料)、求人ナビ原稿・パンフレット・動画制作などの「企画制作サービス」、高校訪問代行や「人事部パック」などの「代行支援サービス」、企業向け新人育成研修「ルーキーズクラブ」や高校向けキャリア教育「ジョブドラフトCareer」などの「教育研修サービス」を展開しています。2026年3月期(第12期)までは「高卒人材採用支援事業」の単一セグメントでしたが、2026年4月のジンジブキャリア子会社化に伴い、「就職支援事業」「進学支援事業」の2セグメント体制に移行しました。
事業拡大の重要なチャネルとして、全国の都市銀行・地方銀行・信用金庫との連携があり、2026年3月末時点で106行と提携、月間平均275社ほどの案件紹介を受けています。高校生の就職活動は大学生と異なり、高校の推薦(学校斡旋)を経て行われる独特の商慣行のため、独自に構築した全国の高校ネットワーク(2026年3月期に2,664校を訪問)が同社の競争優位の源泉となっています。
2. 業績・財務情報
業績の推移
| 決算期 | 売上高 | 経常利益 | 当期純利益 | EPS | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第8期(2022年3月期) | 973百万円 | △94百万円 | △66百万円 | △32.93円 | △3.8% |
| 第9期(2023年3月期) | 1,518百万円 | 65百万円 | 41百万円 | 20.69円 | 1.4% |
| 第10期(2024年3月期) | 2,083百万円 | 254百万円 | 142百万円 | 65.23円 | 22.3% |
| 第11期(2025年3月期) | 2,400百万円 | 59百万円 | △184百万円 | △63.69円 | 18.6% |
| 第12期(2026年3月期) | 2,688百万円 | 166百万円 | 182百万円 | 62.81円 | 24.9% |
※EPS等は2023年12月・2024年10月実施の株式分割を考慮した換算値。金額は千円未満を四捨五入。
この5期の推移からわかる通り、ジンジブの業績は振れ幅の大きさが特徴です。上場翌期にあたる第11期(2025年3月期)は、期初計画からの下方修正に加え、繰延税金資産(将来の税負担を軽くする効果がある資産)の取り崩しが発生したことで、経常利益は59百万円を確保しながらも184百万円の最終赤字に転落しました。
これに対して第12期(2026年3月期)は、売上高2,688百万円(前期比+12.0%)、営業利益166百万円(同+165.4%)、経常利益166百万円(同+181.5%)、当期純利益182百万円(前期は184百万円の最終赤字)と、増収に加えて大幅増益・黒字転換を達成しました。主力の「ジョブドラフトNavi」掲載企業数は2,509社(前期2,056社)に拡大し、粗利益率も計画の79.4%に対し86.2%で着地するなど、収益性が大きく改善しています。なお、当期純利益が経常利益を上回っているのは、繰延税金資産の積み増し(法人税等調整額として64百万円の税負担軽減効果)が寄与したためで、若い成長企業に特有の会計上の変動要因である点には留意が必要です。
自己資本比率は24.9%(前期18.6%)、ROE(自己資本利益率=株主が出した資金に対してどれだけ効率的に利益を稼いだかを示す指標)は37.8%となっています。ROEが高水準なのは、自己資本の規模がまだ小さいことの裏返しでもあり、成長段階の企業によく見られる特徴です。
直近四半期の状況
2027年3月期第1四半期(2026年4月〜6月)は、ジンジブキャリアを新たに連結子会社化した初めての四半期にあたり、売上高991百万円、営業利益49百万円、経常利益48百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益10百万円となりました。セグメント別売上高は、就職支援事業677百万円、進学支援事業315百万円です。同社の採用支援サービスは高校新卒採用の結果が判明する10〜3月にリピート契約が集中するため下期偏重の傾向があり、第1四半期は例年利益水準が伸びにくい季節性がある点は留意しておく必要があります。なお、ジンジブキャリア単体では営業利益67百万円、当期純利益42百万円の貢献があったとされています。
キャッシュフローと財務体質
第12期(2026年3月期)の営業活動によるキャッシュフローは302百万円のプラス(前期は128百万円のマイナス)と大きく改善しました。投資活動によるキャッシュフローは121百万円のマイナスで、主に東京支店移転に伴う内装・設備投資(有形固定資産取得82百万円)によるものです。財務活動によるキャッシュフローは90百万円のマイナスで、長期借入金の返済が主因です。現金及び現金同等物の期末残高は1,684百万円まで積み上がっており、有利子負債残高は422百万円(前期末515百万円)に減少しています。
なお、2026年8月1日付で、資本金を304百万円から50百万円へ、資本準備金を334百万円から50百万円へ減少させ、その他資本剰余金へ振り替えたうえで繰越利益剰余金の欠損(67百万円)を填補する手続きが完了しています。これは会計上の科目間の振り替えであり、純資産合計額や実質的な財務体力に影響を与えるものではありませんが、財務体質の健全化と今後の機動的な資本政策・株主還元に備える目的とされています。
3. 成長戦略・将来性
2027年3月期の連結業績予想は、売上高4,187百万円(前期比+55.8%)、営業利益327百万円(同+97.0%)、経常利益322百万円(同+94.5%)、当期純利益353百万円(同+93.6%)、EPS121.53円と、大幅な増収増益が見込まれています。この急拡大の主因は、2026年4月に連結子会社化した株式会社ジンジブキャリア(進学支援事業)の通期寄与であり、既存の就職支援事業に加えて進学支援事業を取り込むことで、高校生のあらゆる進路選択をカバーするプラットフォーム化を進める考えです。
有価証券報告書に示された経営戦略としては、(1)進学支援事業への進出によるワンストッププラットフォーム構築、(2)金融機関(地銀・信金等)との連携強化による紹介獲得数の向上、(3)新規開拓とカスタマーサクセスの役割分担による営業体制の改善、(4)AI・外部委託活用による全社生産性の向上、(5)オプション販売や「人事部パック」拡販による顧客単価(付加価値)の向上、(6)「ジョブドラフトTeacher」「ジョブドラフトCareer」の学校導入拡大、(7)リアルなイベントとテクノロジー基盤の両輪による学校シェア拡大、の7本柱が示されています。
事業環境については、2027年3月卒業者の大卒求人倍率が1.62倍(前年1.66倍から低下)である一方、高卒求人倍率は4.12倍(前年4.10倍から上昇)と、高い水準が続いています。少子化による若手人材の希少化を背景に、企業の高卒採用ニーズは今後も高止まりが見込まれる一方、同社の進学支援事業がターゲットとする高校生の大学・短大進学率も61.4%(前年度比+0.7ポイント)と過去最高を更新しており、同社の事業領域そのものが構造的な追い風を受けている状況です。もっとも、第11期(2025年3月期)には期初計画の下方修正という経験もあり、会社自身も「業績予想の精緻化」を今後の課題として挙げています。研究開発費の計上は該当事項がないとされています。
4. 株主還元
同社は会社設立以来、配当を実施していません。経営基盤の長期安定に向けた財務体質強化と事業の継続的拡大を優先し、内部留保の充実を図る方針としています。将来的には株主還元の一環として配当を行う方針を示していますが、実施の可能性や時期については有価証券報告書提出時点で未定とされています。自己株式の取得についても、2026年3月期において実績はありません。上場から日が浅く、成長投資を優先する段階の企業に典型的な株主還元方針といえます。
5. ガバナンス・リスク
同社は取締役会・監査役会・会計監査人(PwC Japan有限責任監査法人)を設置する体制を採っています。取締役会は6名で構成され、うち2名が社外取締役(社外取締役比率33.3%)です。監査役会は常勤監査役1名・非常勤監査役2名の3名で構成され、全員が社外監査役となっています。任意の報酬委員会(取締役3名、うち2名が社外取締役)も設置されており、取締役報酬の客観性確保に努めています。取締役会は月1回の定例開催に加え臨時開催もあり、当事業年度は主要な取締役が15回全ての開催に出席しています。
政策保有株式(いわゆる持ち合い株式)については、純投資目的・純投資目的以外の目的のいずれの株式も保有していないと明記されています。
リスク要因としては、(1)労働市場の景気変動に伴う企業の採用意欲の増減が業績に影響しうる点、(2)少子化の進展による進学支援事業の対象人口減少リスク、(3)Web求人広告事業への新規参入リスク(他社との差別化の必要性)、(4)採用支援サービスの売上高の51.6%(2026年3月期)が下期に偏重するなど季節変動が構造的に大きい点、(5)代表取締役社長・佐々木満秀氏(創業者、発行済株式総数の45.77%を保有)への依存度が高い点、(6)ジンジブキャリアとのPMI(買収後の統合プロセス)が想定通り進まないリスク、(7)繰延税金資産の回収可能性の評価(将来の課税所得の見積りに経営者の判断が伴うため、見積りと実績が乖離した場合に業績への影響が生じうる点)、(8)新株予約権の行使に伴う株式価値の希薄化(発行済株式総数に対する潜在株式数の割合は7.67%)が挙げられます。一方で、個人情報保護についてはプライバシーマークを取得し、職業安定法上の届出・認定(優良募集情報等提供事業者、有料職業紹介事業許可)を得るなど、法令面の対応は進められています。
6. 株主構成・株価情報
有価証券報告書(2026年3月31日現在)に記載された大株主は次の通りです。
| 株主名 | 持株比率 |
|---|---|
| 佐々木 満秀(代表取締役社長) | 45.77% |
| 株式会社人と未来 | 11.29% |
| 株式会社SBI証券 | 9.62% |
| 森 亮太 | 3.75% |
| 海老根 智仁 | 2.06% |
| 楽天証券株式会社共有口 | 2.06% |
| 小西 裕也 | 1.07% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 1.00% |
| MSSG A/C CLIENTS | 0.87% |
| 池田 良介(社外取締役) | 0.68% |
上位10名の合計は78.22%です。創業者である代表取締役社長の佐々木満秀氏が発行済株式の45.77%を単独で保有しており、上場企業としては創業者の支配力が強い株主構成となっています。なお、2位株主の株式会社人と未来は前事業年度末までは主要株主でなかったものの、当事業年度末時点で新たに主要株主となっています。
発行済株式総数は2,905,200株(2026年3月末)、単元株式数は100株です。2023年12月に1株→100株、2024年10月に1株→2株の株式分割を実施しています。
現在の株価情報(2026年9月11日時点、Yahoo!ファイナンスのデータ)では、株価829円、時価総額約24億円、PER(会社予想EPS121.51円ベース)約6.82倍、PBR(実績BPS200.67円ベース)約4.13倍、配当利回り0%(無配)となっています。第12期の有価証券報告書提出時点(2026年6月)のPER(実績EPS62.81円ベース)は10.57倍でしたが、その後2027年3月期の業績予想が大幅増益となったことで、予想EPSベースのPERはより低い水準に変化しています。小型のグロース市場銘柄であるため株価変動が大きい可能性があり、また無配であるため配当利回りに基づく投資判断はできない点にご留意ください。 株価情報は変動するため、最新の数値は証券会社のサイト等でご確認ください。
7. まとめ
ジンジブ(142A)は、高校生の就職支援というニッチ市場に特化し、全国の高校ネットワークと金融機関連携を強みに事業を展開してきた、上場2年目の成長企業です。2025年3月期の最終赤字から一転、2026年3月期は大幅増益・黒字転換を果たし、さらに2026年4月のジンジブキャリア子会社化により進学支援事業へと領域を広げたことで、2027年3月期は売上高・利益とも大幅な伸びが見込まれています。一方で、創業者への株式・経営の集中度が高いこと、採用支援サービスの季節変動が構造的に大きいこと、繰延税金資産の評価など会計上の変動要因が業績のブレにつながりやすいこと、そして無配であることは、投資判断にあたって理解しておくべきポイントです。少子化が進む中でも高卒求人倍率が高水準を維持し、高校生の進学率も上昇するなど、同社の事業領域自体には構造的な追い風があります。ジンジブキャリアとの統合(PMI)の進捗や、四半期ごとの業績の季節性を踏まえた実態把握が、今後この銘柄を見ていく上でのポイントになるでしょう。