【1377】サカタのタネ

2026/09/03

企業分析

t f B! P L

1. 企業概要

株式会社サカタのタネ(証券コード:1377、東京証券取引所プライム市場)は、神奈川県横浜市に本社を置く、種苗(タネ・苗)の生産・販売を祖業とする世界有数の総合種苗メーカーです。1913年7月、創業者・坂田武雄氏が横浜で「坂田農園」を興したのが始まりで、1942年に複数企業の合同により「坂田種苗株式会社」として法人化されました。代表者は代表取締役会長の坂田宏氏、代表取締役社長の加々美勉氏、資本金は135億円、従業員数は連結3,040名(単体698名、2025年5月末時点)です(企業サイト・IR資料に基づく)。

沿革(抜粋)

  • 1913年7月:坂田武雄氏が横浜で「坂田農園」を設立(翌年「朝日農園」に改称し、欧米向けユリ球根の輸出を開始)
  • 1916年:種子販売を開始
  • 1921年:日本の民間企業として初の発芽試験室を設置
  • 1942年:複数企業の合同により「坂田種苗株式会社」として法人化
  • 1951年:日本初のガーデンセンターを開業
  • 1987年:東京証券取引所市場第二部に上場
  • 1990年:東京証券取引所市場第一部に指定
  • 1990年代〜2000年代:米州・欧州・アジアなど世界各地に現地法人・研究農場を設置し、グローバル展開を推進
  • 2013年:創業100周年
  • 2017年:ヨルダンの種苗会社McAVETを買収
  • 2023年:オランダのSana Seeds、ブラジルのIsla Sementesを買収
  • 2026年7月:初の長期経営計画「PASSION2035」を発表

2017年以降のヨルダン・オランダ・ブラジルでの買収を軸に、海外売上高比率はかつての約4割から約8割まで上昇しており、現在の収益構造を形づくる大きな転換点になっています(沿革・M&A情報の一部は企業サイト以外の外部情報源(楽天証券 トウシル等)も参照しています)。

事業内容とセグメント構成

同社は以下の4つの報告セグメントで事業を展開しています。

セグメント 主な事業内容
国内卸売事業 種苗会社・生産者向けの野菜種子・花種子・球根・苗木・農園芸資材等の卸売
海外卸売事業 北米・南米・欧州・アジアなど世界各国への種苗の供給(連結売上の約8割を占める主力事業)
小売事業 ホームセンター・通信販売等を通じた個人向け園芸商材の販売
その他 造園緑化工事・温室工事・農業施設工事の設計監理請負、人材派遣等

事業は23か国で展開され、種苗は170か国以上に供給されています。研究拠点は国内5か所・海外16か所の計21か所を持ち、全従業員の約18%が研究職という研究開発重視の体制が特徴です。競争優位性を示す数字として、ブロッコリーの世界市場シェア約65%、トルコギキョウ(花き)で約70%を占めるとされ、代表品種にはメロン「アンデス」「プリンス」、ミニトマト「アイコ」などがあります(シェア等の数値は企業サイト以外の情報源(楽天証券 トウシル等)にも基づいています)。

経営理念・ビジネスモデル

同社は「タネを通じて社会に貢献する」ことを理念の核とし、品質・誠実・奉仕を基本方針として掲げています。ビジネスモデルは、世界各地の気候・土壌条件に応じて最適な場所で生産する「適地生産」の考え方のもと、分散した生産拠点網を通じて安定供給と気候リスクの分散を両立させる点が特徴です。研究開発から生産・販売までを自社で一貫して担う垂直統合型の構造を持ち、2018年5月期から2025年5月期にかけて売上高は約1.5倍、当期純利益は約1.7倍に拡大しており、特に海外卸売事業は売上高1.9倍・営業利益1.8倍と、成長の主エンジンとなっています(楽天証券 トウシルの分析記事に基づく数値を含みます)。

2. 業績・財務情報

連結業績の推移

決算期 売上高 営業利益 経常利益 親会社株主帰属純利益
2023年5月期 772億63百万円 ― ― 94億90百万円
2024年5月期 886億77百万円 ― ― 161億63百万円(遊休資産売却益等を含む)
2025年5月期 929億20百万円 122億57百万円(+16.8%) 123億11百万円(+10.7%) 97億11百万円(△39.9%)
2026年5月期(実績) 1,042億80百万円(+12.2%) 131億22百万円(+7.1%) 142億78百万円(+16.0%) 121億63百万円(+25.2%)

2025年5月期の純利益急減は、前期(2024年5月期)に計上された遊休資産売却益の反動によるもので、事業本体の収益力低下ではありません。2026年5月期はこの反動を消化し、増収増益に復帰しています(2023〜2024年5月期の営業利益・経常利益は今回確認できた公開資料の範囲では確認できませんでした)。

2026年5月期は「保守的な当初計画」を大幅に上回る着地

同社は2025年7月の期初時点で、2026年5月期について「経常利益△10.7%の減益」という保守的な計画を公表していました(売上高955億円、営業利益110億円、経常利益110億円、純利益90億円)。しかし実際の着地は、売上高1,042億80百万円(計画比+9.2%)、営業利益131億22百万円(計画比+19.3%)、経常利益142億78百万円(計画比+29.8%)、純利益121億63百万円(計画比+35.1%)と、全項目で計画を大幅に上回る「上振れ決算」となりました。会社側は野菜種子を中心とした国内卸売事業の好調に加え、海外市場(特に南米・欧州)の伸長と、想定為替レート(米ドル140円・ユーロ160円)に対する円安進行が増益に寄与したと説明しています。

セグメント別の業績(2025年5月期実績、決算説明資料ベース)

セグメント 売上高 構成比 営業利益
海外卸売事業 719億77百万円 77.5% 200億21百万円
国内卸売事業 126億61百万円 13.6% 47億60百万円
小売事業 45億31百万円 4.9% △2億56百万円(損失)
その他 37億49百万円 4.0% 1億05百万円

(セグメント利益の合計は全社費用等の調整前の数値であり、調整額を差し引いた金額が連結営業利益となります。2026年5月期のセグメント別確定値は今回確認できた公開資料の範囲では入手できませんでしたが、直近の第3四半期累計(9か月)ベースでは海外卸売事業が売上構成比80.3%・営業利益率23.6%と、引き続き圧倒的な主力事業になっています)

海外卸売事業が売上の8割弱・営業利益の8割超を稼ぐ収益構造であり、小売事業は個人向け園芸市場の縮小もあって営業損失が続いている点が特徴です。地域別では、2025年5月期実績で欧州・中近東、南米、北中米が増収に寄与した一方、アジアは減収となりました。2026年5月期第1四半期(6〜8月)の地域別実績では、南米が+33.4%、北米・中米が+21.3%、欧州・中東が+16.5%、アジアが+13.0%とすべての地域で増収となっており、海外事業の裾野の広さがうかがえます。

財務指標

  • 自己資本比率:82.3%(前期84.5%)※総資産に占める返済不要の自己資本の割合を示す指標です。前期から2.2pt低下しましたが、一般的な事業会社と比べて極めて高い財務健全性を維持しています。
  • ROE(自己資本利益率):6.82%※株主が出資した資本に対してどれだけ利益を生み出したかを示す指標です。自己資本比率の高さ(無借金に近い財務構造)を踏まえると、絶対水準としてはまだ改善余地があり、後述する長期経営計画でもROE向上が明確な目標に掲げられています。
  • 1株当たり当期純利益(EPS):284.46円
  • 純資産:1,789億83百万円
  • 研究開発費:105億25百万円(2025年5月期実績、売上高比11.4%)※種苗業界では品種開発に長期間を要するため、研究開発費の売上高比率の高さが競争力の源泉となります。

3. 成長戦略・将来性

同社は2026年7月13日、創業以来初となる長期経営計画「PASSION2035」を発表しました。キーステートメントは「Cultivating Tomorrow’s Harvest with You」で、「世界で最も信頼されるパートナー」を目指すとしています。

2036年5月期(最終年度)の数値目標

指標 目標値
売上高 2,000億円
営業利益 350億円
営業利益率 17.5%
当期純利益 280億円
ROE 10%以上

2026年5月期の売上高1,042億80百万円に対し、10年後の2036年5月期には2,000億円(約1.9倍)を目指す計画であり、営業利益率も現状の12.6%(2026年5月期実績ベース)から17.5%への引き上げを掲げています。ROE10%以上という目標は、現状の6.82%から相応の改善が必要な水準であり、単なる増収だけでなく資本効率の向上を強く意識した計画であることがうかがえます。

成長投資計画

2031年5月期までの5年間で、総額約500億円の積極的な成長投資を実施する方針です。研究開発の強化とグローバル展開の加速が重点分野として挙げられていますが、具体的な投資対象の内訳については、今回確認できた公開資料の範囲では詳細を確認できませんでした。

資本政策の転換

PASSION2035では、従来の「高い自己資本比率」重視の財務方針から一歩踏み込み、自己資本比率を60%台まで引き下げる(=資本を積極的に活用する)方針が示されています。2026年5月期時点の自己資本比率は82.3%であり、この目標は同社にとって大きな方針転換といえます。株主還元との関係では、株主資本配当率(DOE)2.5%以上、配当性向35%を目安とし、今後5年間の総還元性向は60%を目安とするなど、資本効率とのバランスを取りながら株主還元を強化する枠組みが新たに整理されました。

海外M&Aによる成長実績

2017年のヨルダン・McAVET買収を皮切りに、2023年にはオランダのSana Seeds、ブラジルのIsla Sementesを相次いで買収するなど、海外M&Aを軸とした事業拡大を続けてきました。この結果、海外売上高比率はかつての約4割から現在の約8割まで上昇しています。PASSION2035でも「グローバル展開の加速」が掲げられていることから、今後も海外M&Aが成長戦略の重要な手段であり続ける可能性が高いとみられます。

4. 株主還元

配当方針

同社は長期安定方針のもとで、安定的・継続的な株主還元の強化を基本方針としてきました。2026年5月期からは新たに株主資本配当率(DOE)を導入し、単年度の利益変動に配当額が振らされにくい枠組みへと移行しています。

配当金の推移

決算期 年間配当金
2022年5月期 45.00円
2023年5月期 55.00円
2024年5月期 65.00円
2025年5月期 75.00円(中間35円+期末40円)
2026年5月期(実績) 75.00円(中間35円+期末40円、前期比横ばい)
2027年5月期(会社予想) 90.00円(前期比+15円)

2022〜2025年5月期にかけて4期連続の増配が続いた後、2026年5月期は純利益が計画比+35%の大幅増益となったにもかかわらず、配当は75円で据え置きとなりました。これは前述のDOE導入により、単年度の利益変動よりも株主資本に対する安定的な還元率を重視する方針に転換したためとみられます。増益の年は据え置き、翌2027年5月期に90円への大幅増配(PASSION2035の発表と同時期)という時間差のある還元パターンになっており、単年の増減だけでなく複数年でならして評価するのが実態に近いとみられます(2027年5月期の配当予想は、決算短信原本ではなく外部データベース(Yahoo!ファイナンス、株探)の表示に基づいており、中間・期末の内訳は今回確認できませんでした)。

自己株式取得の実績

2025年10月8日〜11月6日には、自己株式の公開買付け(TOB)を実施しました。買付株式数の上限は110万100株、買付価格は1株3,285円(公表前日終値を約9.4%下回るディスカウントTOB)で、買付総額は約36.1億円、目的は「株主還元の充実や資本効率の向上」とされています。公開買付けという手法で自己株式取得を実施する点は、市場内買付けとは異なる特徴的な手法です。また、2026年5月期決算発表と同時に、新たに約50億円規模の自己株式取得を決定したことが報じられており(日本経済新聞の見出しによる)、継続的かつ積極的な自己株式取得の姿勢がうかがえます(取得株式数の上限等の詳細は今回確認できた公開資料の範囲では確認できませんでした)。

株主優待制度

同社には株主優待制度があります。毎年5月末日を権利確定日とし、100株以上の保有でカタログギフト(球根・グルメ・お米券等から選択)が贈呈されます。2024年5月権利分から、株主名簿に同一株主番号で1年以上継続して記載されていることが条件として導入されました。

保有株数 1年以上保有 5年以上保有
100株以上 カタログギフトA(1,500円相当) カタログギフトB(3,000円相当)
300株以上 カタログギフトB(3,000円相当) カタログギフトC(4,500円相当)
1,000株以上 カタログギフトC(4,500円相当) カタログギフトD(6,000円相当)

(優待の詳細な品目・条件は年度により変更される可能性があるため、最新情報は会社発表をご確認ください)

5. ガバナンス・リスク

取締役会・監査役会の構成

同社は監査役設置会社の形態を採っています。役員構成(氏名・役職は公開情報に基づく)は以下の通りです。

区分 氏名 区分
代表取締役会長 坂田宏氏 社内
代表取締役社長 加々美勉氏 社内
取締役専務執行役員 古木利彦氏 社内
取締役専務執行役員 高宮全氏 社内
取締役 菅原邦彦氏 社外
取締役 尾崎行正氏 社外
取締役 渡辺雅子氏 社外
常勤監査役 對馬淳平氏 社内
監査役 坊昭範氏 社外
監査役 田中公子氏 社外

会計監査人は有限責任あずさ監査法人です。社外役員は合計5名(社外取締役3名・社外監査役2名)で、全員が独立役員として届け出られています。代表取締役会長の坂田宏氏は創業家の一族とみられ、後述する株主構成とあわせて、創業家の関与が続く経営体制である点は特徴として押さえておきたいポイントです。

主なリスク要因(公開情報より)

  • 天候・自然災害リスク:種苗の生育は天候に大きく左右されるため、天候不順や自然災害が生産・供給に影響を及ぼす可能性
  • 知的財産リスク:品種開発には10年以上の長期間を要する一方、開発した品種の模倣品が出現するリスク
  • カントリーリスク:売上高の約8割を海外が占めるため、進出先国の政治・経済情勢や地政学的リスクの影響を受けやすい
  • 為替リスク:海外売上比率の高さから、為替変動が業績に与える影響が大きく、会社側は為替感応度として「米ドル1円の変動で営業利益97百万円、ユーロ1円の変動で営業利益17百万円」と試算を開示しています。2026年5月期の大幅増益にも、円安進行による海外収益の円換算増加が寄与したとみられます
  • 情報セキュリティリスク:サイバー攻撃やシステム障害により事業運営に支障が生じる可能性

為替感応度の高さは、2025年5月期→2026年5月期の急回復や、当初の保守的な計画からの大幅な上振れにも表れており、業績のボラティリティ要因として継続的に注視する必要があります。なお、有価証券報告書に記載される「事業等のリスク」の全項目については、今回のアクセス範囲では確認できませんでした。

6. 株主構成・株価情報

大株主(上位5名、外部データベースによる)

株主名 持株比率
ティーエム興産 17.56%
日本マスタートラスト信託銀行 9.57%
みずほ銀行 3.46%
三井住友銀行 3.44%
日本カストディ銀行 2.62%

筆頭株主のティーエム興産は創業家である坂田家の資産管理会社とみられ、代表取締役会長の坂田宏氏の存在とあわせて、創業家が一定の影響力を持つ株主構成となっています(この大株主データは企業サイトでは確認できず、外部データベース(Ullet)に基づいています。ティーエム興産の性格についても外部情報からの推測であり、6位以下の詳細は今回確認できませんでした)。

株式・株価情報

  • 発行済株式総数:45,410,750株
  • 単元株数:100株
  • 上場市場:東京証券取引所プライム市場

参考までに、2026年8月25日時点の株価は4,480円、時価総額は約2,034億円(203,440百万円)、PER(会社予想)は18.93倍、PBR(実績)は1.06倍、配当利回り(会社予想、年間配当90円ベース)は2.01%でした(52週高値4,715円[2026年7月14日]・52週安値3,885円[2026年1月14日])。(※株価・指標は日々変動するため、あくまで一時点の参考情報です。また、この5指標は同一の情報源から同時点で取得したものであり、時価総額÷発行済株式数が株価とほぼ一致すること、配当利回り×株価が年間配当90円とほぼ一致することを確認済みです。)PBRは1倍前後と、増収増益が続く優良企業としてはやや控えめな水準にあります。民間の株式アナリストによる分析では、過去7年間で株主資本が約1.6倍に拡大した一方、時価総額は横ばい圏にとどまり、PBRは過去平均の1.4倍前後から現在の1倍前後まで低下したとの指摘もあります。これが市場による過小評価なのか、低ROE水準(6.82%)を踏まえた妥当な評価なのかは見方が分かれるところであり、PASSION2035で掲げるROE10%目標の達成度合いが、今後の株価評価を左右する重要な材料になるとみられます。

7. まとめ

サカタのタネ(1377)は、創業113年、ブロッコリー世界シェア約65%・トルコギキョウ約70%という高い競争優位を持つ、世界有数の種苗メーカーです。2017年のヨルダン企業買収を皮切りとした海外M&Aにより、海外売上高比率はかつての約4割から約8割まで上昇し、海外卸売事業が売上・利益の大半を稼ぐ収益構造へと転換しています。2026年5月期は、期初に「経常利益11%減益」という保守的な計画を掲げていたにもかかわらず、国内種苗事業の好調と海外事業の伸長・円安効果により、売上高・営業利益・経常利益・純利益のすべてで計画を大幅に上回る増収増益を達成しました。

2026年7月には創業以来初の長期経営計画「PASSION2035」を発表し、2036年5月期に売上高2,000億円・ROE10%以上を目指す方針を示すとともに、自己資本比率82%台から60%台への引き下げという資本効率を重視する方針転換を打ち出しています。株主還元面では、DOE(株主資本配当率)を新たに導入し、公開買付け方式での自己株式取得も実施するなど、より積極的で予見可能性の高い株主還元の枠組みづくりが進んでいます。

一方で、海外売上比率の高さゆえの為替感応度の大きさ(2025年5月期の純利益急減、2026年5月期の急回復、2027年5月期予想での反動減という振れ幅の大きさ)や、創業家が大株主・経営陣に一定の影響力を持つ株主構成、そしてPBRが1倍近辺にとどまる市場評価は、投資判断にあたって留意しておきたいポイントです。長期経営計画で掲げたROE10%という目標が、実際にどこまで達成されていくかが、今後の株価評価を占ううえでの重要な観察点になるとみられます。本レポートはあくまで情報提供であり、最終的な判断はご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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