【1380】秋川牧園

2026/09/04

企業分析

t f B! P L

山口県を拠点に、無投薬飼育の鶏肉や無添加加工食品などを手がける株式会社秋川牧園(証券コード:1380、東証スタンダード市場)について、2026年3月期(第47期)の有価証券報告書と、直近の2027年3月期第1四半期決算短信(いずれも一次データ)をもとに、投資初心者の方向けにファンダメンタルズ分析を行いました。数値は原則として企業が開示した決算短信・有価証券報告書に基づいており、外部データを使用した箇所はその都度出典を明記しています。


1. 企業概要

事業内容・セグメント構成

秋川牧園は「食の安心・安全」をブランドの核とする食品メーカーで、生産卸売事業(食肉、加工食品、鶏卵、牛乳等の生産・販売)と直販事業(自社製品を中心に会員制で消費者へ直接宅配する事業)の2セグメントを展開しています。連結子会社は、㈲篠目三谷(鶏卵生産)、㈱ゆめファーム(青果生産)、㈲菊川農場(若鶏生産)、㈱チキン食品(鶏肉の一次処理加工)、㈲むつみ牧場(原乳生産)、秋川牧園(常州)農業有限公司(中国での若鶏生産・販売)の6社です。

各グループ会社で生産された原材料を本体で製品化・加工し、生協(生活協同組合)や量販店等に卸すのが生産卸売事業、そこで作られた製品と外部仕入れ商品を会員向けに直接届けるのが直販事業という役割分担になっています。

沿革

1979年、山口県山口市に「秋川食品株式会社」として設立され、無投薬の健康鶏卵の製造販売からスタートしました。1993年に現在の「株式会社秋川牧園」に商号変更し、1997年に株式を店頭登録(後の1997年11月)。2004年にジャスダック証券取引所へ上場、2022年4月には東証スタンダード市場へ移行しています。2024年3月には中国・常州に若鶏生産の子会社(秋川牧園(常州)農業有限公司)を設立・完全子会社化し、海外事業にも進出しています。

経営理念

同社は次の3つの企業理念を掲げています(有価証券報告書より)。

  1. 私たちは持続可能で真に豊かな社会への変革に貢献します
  2. 私たちは理想の農業を追求します
  3. 私たちは一人一人の主体性を起点として、活力溢れる会社をつくります

1970年代から農薬・化学肥料・抗生物質等の薬物・化学添加物に頼らない食づくりに取り組んできたことを強みとし、「食の安心・安全を大切にする消費者にとってのNO.1ブランド」を目指すとしています。

ビジネスモデル・主要製品・収益の柱

収益の柱は鶏肉・冷凍加工食品・鶏卵・牛乳などの生産卸売で、販売先は生活協同組合(生協)を中心とした卸販売が中心です。特にグリーンコープ生活協同組合連合会(売上構成比21.5%)と生活クラブ事業連合生活協同組合連合会(同16.8%)の2生協で全体の38.3%を占めており、「食の安心・安全」という価値観を共有する生協との関係が事業基盤の核となっています。

もう一つの柱である直販事業は、全国の個人会員に向けた宅配モデルですが、後述するとおり近年は会員数・注文率の低下が続いています。


2. 業績・財務情報

有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」(連結ベース)より、過去5期分の実績です。

決算期 第43期(2022/3期) 第44期(2023/3期) 第45期(2024/3期) 第46期(2025/3期) 第47期(2026/3期)
売上高(千円) 6,638,727 7,070,463 7,392,457 7,957,457 8,283,360
経常利益(千円) 237,370 242,195 153,574 51,583 186,829
親会社株主に帰属する当期純利益(千円) 159,570 156,042 98,290 28,185 21,803
自己資本比率(%) 36.3 35.2 31.0 30.6 31.2
自己資本利益率(ROE)(%) 8.1 7.5 4.6 1.3 1.0
株価収益率(PER)(倍) 28.2 27.9 44.2 150.6 196.2

売上高は5期連続で増収を続け、直近の第47期(2026年3月期)も82億83百万円(前期比4.1%増)となりました。一方で、経常利益・純利益はこの5年で明確な右肩下がりの傾向にあります。特に純利益は第43期の1億60百万円から第47期は2千180万円まで縮小しており、ROEも8.1%から1.0%まで低下しています。

第47期単体の業績を見ると、親会社(秋川牧園単体)の当期純利益は△20,995千円の赤字でした(連結の純利益はプラスの21,803千円)。これは子会社の業績が連結純利益を下支えしている一方、本体単独では利益をあげきれていないことを意味します。

第47期(2026年3月期)の増減益の内訳

第47期は、冷凍加工食品を中心とした販売好調と製品の価格改定効果により売上が増加し、営業利益は1億43百万円(前期は3百万円の営業損失)、経常利益は1億86百万円(前期比262.2%増)と大幅に改善しました。しかし、直販事業と中国子会社について固定資産の回収可能価額を見直した結果、合計1億43百万円の減損損失(直販事業94百万円、中国子会社49百万円)を特別損失として計上したため、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比22.6%減の2千180万円にとどまりました。本業の収益力は改善している一方、資産価値の見直しによる一時的な損失が最終利益を押し下げたという構図です。

セグメント別では、生産卸売事業が売上高66億22百万円(前期比5.7%増)・営業利益5億58百万円(同35.5%増)と好調だった一方、直販事業は消費者の節約志向を背景に新規会員数の減少・注文率低下により売上高16億60百万円(同1.8%減)と苦戦が続いています(営業利益自体は経費削減効果で35百万円・同18.0%増)。

財務指標

自己資本比率は31.2%で、前期からほぼ横ばいです。一般的に自己資本比率が高いほど負債への依存度が低く財務的な安全性が高いとされますが、31%台という水準は業種平均と比べて特別高いわけではなく、有利子負債(借入金・リース債務等)の残高は31億41百万円に上ります。ROE(自己資本利益率。株主の出資したお金をどれだけ効率的に利益に変えられているかを示す指標)は1.0%と低水準で、収益性の面では改善余地が大きい状況です。

キャッシュ・フローについては、営業活動によるキャッシュ・フローは6億42百万円のプラス(前期は7億25百万円)を確保していますが、投資活動によるキャッシュ・フローは設備投資を中心に△3億81百万円、財務活動によるキャッシュ・フローは長期借入金の返済等により△3億25百万円となりました。現金及び現金同等物の期末残高は9億4百万円です。


3. 成長戦略・将来性

中期経営計画

同社は現在3年目となる中期経営計画で、以下の「7つの基本戦略」を掲げています(有価証券報告書より)。

  • 人財戦略:社員が安心してチャレンジできる環境づくり、人財マネジメントの強化
  • ファン化戦略:秋川牧園ブランドのファンを増やす情報発信の強化
  • 鶏肉・冷食事業の変革:冷食の商品構成の成型品シフト、機械化・IT化
  • 直販事業の強化:会員限定商品の開発、ECサイトのユーザビリティ改善
  • 中国鶏肉事業の基盤の確立:秋川牧園(常州)農業有限公司の販路拡大・品質管理強化
  • サステナビリティ戦略:脱炭素・脱プラ・地域連携、飼料の国産自給化
  • 食の信頼:品質管理・生産管理の強化

数値目標としては、2033年3月期に売上高120億円、売上高経常利益率4%以上を掲げています。第47期の売上高経常利益率は2.3%であり、目標達成にはまだ距離があります。

設備投資・研究開発

第47期の設備投資額は3億56百万円で、主な内容は鶏卵生産子会社(㈲篠目三谷)における採卵鶏の定期取得(1億49百万円)、直販事業の基幹システム刷新(71百万円)、冷凍食品工場のボイラ更新(13百万円)などです。研究開発費は32百万円で、若鶏の腸内細菌叢改善技術や、飼料の国産自給率向上を目指した飼料米の栽培・活用技術の開発、動物性飼料を使わない「全植たまご」のような差別化商品の開発に取り組んでいます。大規模なM&A方針の記載はありません。

2027年3月期の業績予想

会社が公表している次期(2027年3月期)の連結業績予想は、売上高86億15百万円(前期比4.0%増)、営業利益70百万円(前期比50.8%減)、経常利益130百万円(前期比30.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益80百万円(前期比266.9%増)、EPS19.19円というものです。

一見すると、営業利益・経常利益は大きく減る予想である一方、純利益だけが大幅増という不自然な数字に見えますが、これは前期(第47期)に計上した約1億43百万円の減損損失が次期には想定されていないためです。本業の収益力そのものは前期から一段弱まる想定である一方、一時的な特別損失が発生しないことで最終利益は正常化する、という予想の構造になっています。

なお、直近の第1四半期(2026年4月〜6月)の実績は、売上高20億95百万円(前年同期比2.0%増)に対し、営業損失7百万円(前年同期は5百万円の営業利益)、経常利益6百万円(前年同期比38.8%減)と、原材料・人件費コストの上昇や直販事業の売上減少が響き、通期予想の達成には下期での挽回が必要な滑り出しとなっています。


4. 株主還元

配当方針

秋川牧園は、期末配当年1回を基本方針とし、過去5期にわたり1株当たり10円の配当を維持しています。しかし、この間EPS(1株当たり当期純利益)は大きく変動しており、配当性向(単体基準)は第44期の33.5%から第46期には110.2%(=その期に稼いだ利益以上を配当として支払った状態)まで上昇し、単体が赤字となった第47期は配当性向が算出不能(記載なし)となっています。次期(2027年3月期)についても1株当たり10円の配当を予想しており、利益水準が変動する中でも配当額を維持する「安定配当」路線を取っていることが読み取れます。

安定配当は株主にとって予測可能性が高いというメリットがある一方、利益に対して配当負担が重い状態が続くと、内部留保の蓄積や財務体質の強化余地が限られるという点は留意が必要です。

自己株式取得

第47期において、株主総会決議・取締役会決議のいずれに基づく自己株式の取得も実施しておらず、「該当事項はありません」と有価証券報告書に明記されています。

株主優待

有価証券報告書には株主優待制度に関する記載はありませんが、株主優待情報サイト(ゆうはい、2026年時点の情報)によれば、500株以上の保有で自社製品詰め合わせ(1,500円相当)、1,000株以上で同(3,500円相当)が贈呈される制度があり、権利確定日は3月末とされています(この項目は決算短信・有価証券報告書に記載のない外部情報であるため、最新の実施状況は同社IRページ等でご確認ください)。


5. ガバナンス・リスク

取締役会・監査役会の構成

2026年6月25日(有価証券報告書提出日)現在、取締役会は代表取締役社長の秋川正氏を含む取締役6名(うち社外取締役2名:内田恭彦氏、小野典子氏、社外取締役比率33.3%)で構成されています。監査役は3名全員が社外監査役(常勤:山根史浩氏、非常勤:江藤龍夫氏・宇佐美理世氏)です。役員9名のうち女性は2名(22.2%)となっています。

取締役会は第47期に14回開催され、代表取締役ほか常勤役員の出席率は100%、社外取締役2名の出席率はそれぞれ13/14回・12/14回でした。月次の幹部会や内部統制強化委員会、サステナビリティ推進委員会なども設置されています。

会計監査

会計監査人は晄和監査法人で、第47期の連結財務諸表について無限定適正意見が付されています。監査上の主要な検討事項(KAM)としては「直販事業に係る固定資産の減損損失の測定」が挙げられており、これは直販事業が売上減少・営業損益のマイナスが続いていることを背景にした、実質的な会計上の重要論点です。前述の減損損失計上はこのKAMと直結する内容であり、直販事業の収益性回復が今後も会計上の重要な着眼点になると考えられます。

政策保有株式

同社は取引先との関係強化を目的として、株式会社山口フィナンシャルグループ(取引銀行、なお同行も秋川牧園株式を保有する相互保有の関係)、オイシックス・ラ・大地株式会社(販売関係の取引先)、株式会社イズミ(販売関係の取引先)の3銘柄を政策保有株式として保有しています。取締役会で毎期保有の合理性を検証しているとしています。

その他のリスク・財務健全性に関する留意点

  • 飼料原料価格の変動:為替や国際的な需給動向により飼料コストが変動するリスク。国の飼料安定基金制度による価格変動の緩和措置があるものの、高騰が長期化すれば製品価格への転嫁が必要になるとしています。
  • 鳥インフルエンザ等の家畜疾病リスク:発症時の生産・販売減少、近隣農場での発症による移動制限や風評被害のリスク。
  • 特定取引先(生協)への売上依存:前述のとおり生協2団体で売上高の38.3%を占めており、その業績・方針変化の影響を受けやすい構造です。
  • 連結子会社の一つである㈲むつみ牧場(原乳生産)は2026年2月末時点で67,073千円の債務超過にあります(有価証券報告書「関係会社の状況」より)。同社は連結グループ内の小規模子会社であり、親会社からの資金援助を受けている旨が開示されていますが、グループ内に財務的に厳しい子会社が存在する点は認識しておくとよいでしょう。

6. 株主構成・株価情報

大株主の状況(2026年3月31日現在、有価証券報告書より)

氏名・名称 所有株式数(千株) 持株比率(%)
秋川正(代表取締役社長) 898 21.5
秋川實 434 10.4
秋川牧園職員持株会 266 6.4
株式会社秋川くらしファーム 210 5.0
株式会社山口銀行 200 4.8
秋川喜代子 131 3.1
秋川寿子 129 3.1
山口県信用農業協同組合連合会 120 2.9
伊藤忠飼料株式会社 106 2.5
秋川茂 69 1.7
上位10名合計 2,564 61.5

大株主構成からは、創業家である「秋川」姓の個人株主5名(秋川正氏・秋川實氏・秋川喜代子氏・秋川寿子氏・秋川茂氏、合計39.8%)に、資産管理会社とみられる株式会社秋川くらしファーム(5.0%)を加えると、創業家関連で発行済株式の45%近くを占める、典型的なオーナー系・ファミリー企業であることが読み取れます。地元金融機関(山口銀行、山口県信連)や取引先(伊藤忠飼料)が上位株主に名を連ねている点も、地域密着型・長期安定株主中心の株主構成を示しています。

株式分割・単元株

有価証券報告書の「発行済株式総数、資本金等の推移」には、2008年の資本準備金振替のみが記載されており、株式分割の実施記録はありません。単元株式数は100株です。

株価情報

過去5期の株価レンジは、最高値が1,050円〜1,370円、最安値が931円〜1,036円のレンジで長期にわたりおおむね1,000円前後で推移してきました。株主総利回り(配当・値上がり益を合わせた株主のリターンを示す指標)は第43期の88.6%から第47期は87.6%とほぼ横ばいで推移している一方、比較指標である配当込みTOPIXは同期間に102.0%から202.2%へと倍増しており、同社株は市場平均に対して大きく出遅れてきたことが明確に読み取れます。

2026年9月3日時点の株価は997円(時価総額約41.7億円)で、株式情報サイトの数値によれば予想PER(会社予想EPS19.19円ベース)は約51.9倍、PBR(株価純資産倍率)は約1.93倍、配当利回りは約1.0%となっています(出典:株探、2026年9月3日時点の市場データ)。有価証券報告書記載の実績PER(第47期末株価・連結EPS5.23円ベース)は196.2倍でしたが、これは前期の連結純利益が減損損失の影響で極端に小さかったことによる特殊要因が大きく、次期予想PERの51.9倍は、減損の影響が薄れた後の水準感により近いと考えられます。いずれにせよ、絶対的な株価収益率としては相応に高い水準にあり、市場は同社の収益回復を先取りして評価している面があると言えそうです。


7. まとめ

秋川牧園は、1970年代から農薬・薬物に頼らない「食の安心・安全」を貫いてきた山口県の老舗食品メーカーで、生協を中心とした強固な販売基盤と、創業家が発行済株式の4割超を握るオーナー経営という特徴を持つ企業です。売上高は5期連続で増加している一方、原材料・人件費コストの上昇や直販事業の会員減少が重荷となり、利益水準はこの5年で明確に縮小傾向にあります。2026年3月期は価格改定効果で本業の収益力は改善したものの、直販事業と中国子会社の減損損失が最終利益を押し下げ、次期(2027年3月期)も会社自身が営業利益・経常利益の減少を見込むなど、収益性の立て直しは道半ばの局面です。一方で、配当は5期連続で1株10円を維持しており、株主還元の安定性を重視する姿勢がうかがえますが、その配当性向は近年高止まりしています。株価は長期的に市場平均を下回って推移してきており、飼料価格・鳥インフルエンザ・特定取引先への依存といった業種特有のリスクとあわせて、収益改善の実現度合いを今後の決算で見極めていく必要がある銘柄と言えるでしょう。


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